戦争初心者うさみ 82
「知っての通り、戦力ではあちらが上。秘策を通せなければ負けは濃厚。金花殿にはうまくいく可能性を少しでも上げてもらいたい」
「えっと」
「会議の時上の空だったのはわかっているから取り繕わなくていいぞ」
「あ、うん。ごめんなさい」
バレてた。
王様が不安そうにしていると周りに伝染するからあの場では余裕を見せておいたが、やっぱり不安だったので追いかけて改めて説明と激励に来た、という話だった。
それはもうごめんなさいである。
犬が苦手なのはいい加減に克服しないといけないとは思っているのだが、特に問題のない場合が多いので後回し後回しになっている。千年単位で。
黒犬さんのように犬系(や狼系)の獣人族の人を相手にするときなど申し訳ないなあと思うのだが、引きこもっていれば何の問題もないのである。
野生の狼はうさぎさんに対処してもらうか、近づかなければいいのだ。
このように考えると、また今度でいいや、と。
このまた今度、という考え方は長生きで、しかも繰り返していることの弊害かもしれない。
「そういうわけだ。秘策の成功率を上げるためにも、員数外で実力がある金花殿にどうか、お願いする」
「ええっ、頭とか下げられても……じゃあその何とかいう赤い人を引き付けるとして、どうしたらいいかな」
王様が頭を下げたとたん、後ろでおつきの人が一人めっちゃにらんできて、もう一人がそれを諫めるように動いた。
なるほどいいコンビかもしれない。
そうじゃなくて。
偉い人に頭を下げられると弱いのはかつて日本人だったからか。
犬の件ともども、前世のことがまるで抜けていない。
焦る自分と、そんなことを考える自分を自覚しながら、うさみは王様にというよりはここにいるみんなに向けて訊ねた。
目立つところで悪口とか言えばいいだろうか。名前わかんないから誰のことを指しているのかわからなくなってしまいそうだ。そうなると効果は薄いかも。
じゃあどうしたらいいかな。
人生を繰り返すようになって割といろいろできるようになったうさみではあるが、それでも経験が少ない事に関しては素人だ。
特に戦闘、中でも対人戦の駆け引きなどに関してはろくにわからないのだ。
「それだがな。黒檀ちゃん」
「ええ。金花は、敵が布陣を始める前から上空に位置どってもらって、見た情報をこちらに伝達してもらうわ。そうすれば相手の空中で動けるものが対応に出てくるでしょうから、あとはうまいこと時間を稼いで。赤い戦士に限らず、空を取れるものを拘束できれば十分な戦果になる」
「時間を稼げばいいの? 無視されたら?」
「空を取られなければそれはそれで有利をとれるから。空で無視されるようなら相手の邪魔をしてちょうだい」
七割さんの言い様だと、空中で動けるのは多くないのかもしれない。
まあ中途半端な機動力だと射撃のいい的になる。魔法で飛ぼうと思ったらその制御に意識を取られるので、複数人で使うような大規模な魔法で逃げられないほど広範囲をドカンとやられたら防御が追っつかないかも。
使い手の総合力が同程度なら。
それくらいならうさみでもわかる。
「上から眺めて報告して、寄ってきたら時間稼ぎ、無視されたら邪魔をするでいいんだね」
「ああ、頼む」
王様がもう一度頭を下げた。