戦争初心者うさみ 81
「わたし一人であの赤い人の相手をしろってこと?」
「一人しか来ないってことは無いだろうから、取り巻きもね」
会議の後、黒犬さんに話を聞こうとしたら、七割さんに呼び止められて、彼女の陣幕に黒犬さんごと連れていかれ「聞いてなかったでしょ」と尋ねられたので「うん」と答えた。
怒られた。
外にばれないためだろうが、小さな声で怒るとは器用な人である。
さておき、要約すると、話に出た赤い女戦士が相手の主力の一人なのは明白であり、我らがカ・マーゼ王国軍は人手不足である。
さて、ここに一度相対して生き延びた勘定外の者がいる。
こちらの戦術は、決戦兵器を使う時間を稼ぎ、タイミングを見計らってぶっぱなす、というものだ……というのは明言されなかったが、あの場にいたものは知っている。
時間を稼ぐだけならば逃げ延びたものならば可能だろう。
というわけでやってね。できるよな。はい。
という話だったらしい。
「わたし戦いとかほとんど未経験なんだけど」
「エルフの射手の矢よりも早く動いて射手を制圧したと聞いたぞ」
「陛下!?」
「あ、王様」
陣幕の入り口に、さっき見た王様が髭をしごきながらニッカリ笑って立っていた。
鎧姿のムキムキの髭のおじさん、ギリギリおにいさんと言えなくもない。
なかなか気さくそうな、あるいは人懐っこそうな笑い方で、立場がなければ気のいい兄ちゃんなんだろうと思わせる。
おつきが二人、武器を捧げ持っているが、こっちは無表情というか、王様との比較で敵意はないまでも不機嫌そうな印象を受ける。
エルフの話、橙の森での件のことだろうが、どこで聞きつけたのやら。いやまあエルプリからしかルートはないけれど、あのしっかりした子がうさみの手の内を話すだろうか。エルフたちの説得に必要なら話すか。あるいはうさみの扱いについてなにがしか脅されでもしたか。
よく考えたら口止めもしてなかったから話す判断をしてもおかしくないかも。
「おう、黒檀ちゃんよ、ここで陛下はいらん。いつものように呼べよ」
「部下もいますので」
「エルプリの保護者だろう? それなら親のようなもんだ。なあ?」
「えーあーそうなの、なんですか?」
「金花殿、でよかったな? 金花殿も楽にしてもらって構わんぞ。人前ではちぃっと配慮してくれるとありがたい」
軽い。
これが素か。
確か、若いころに出奔だか追放だかで国を出て、七割さんとかとつるんでいたのが、滅亡しかけの今になって帰ってきて王位を継いだのだったか。
長い事市井で生活していたのならおかしくないのか。
普通に付き合ったら面白い人なのかもしれない。
エルプリの家族の仇の王様とかいう厄介な前提がなかったら。
あんまりいうのもしつこいだろうか。




