戦争初心者うさみ 79
敵軍の進行が一部停止、隊列の乱れと引き換えに強力な魔力が活性化する。
特に危険を感じないので攻撃魔法ではないだろう。そもそも、このくらいの魔力だと攻撃魔法はここまで届かないし。
「なにするつもりかな?」
「のんびりしてないで鳥を迎撃するか撤退するでありますよ」
使い魔の鳥は遠巻きにうさみたちを見ているだけで、何も読み取れない。
つぶらなおめめがかわいい。
胸元モフモフしたら気持ちよさそう。
「おーい!?」
「あ、うん。用事も終わったし帰……」
帰ろうか、と最後まで言い切る前に、魔力元のあたりから何かがすごい勢いで迫ってきて、そして危険が危ないよけろ危険範囲は近接武器のそれに酷似しているということはうわ人が飛んできてる爆煙が後ろに見える音より速ーい。
うさみは自由落下して飛んでくるもの、いや人の軌道をから外れた。黒犬さんが悲鳴を上げたがそんな場合ではない。
なぜなら危険が追尾してくる。
爆音が追い付いてきたのと、空中で人が爆発したのはほとんど同時といってもいいだろう。
相手は炎のような赤い髪の女戦士で、手には焔のような意匠を施されたハンマー。おそらくは魔導具、魔法武器というやつだ。
空中での方向転換は、このハンマーで空中をぶん殴ると同時に打撃面に発生した爆発と同時だった。打撃と同時に爆発を起こす効果があるのだろう。
人ひとりを吹き飛ばせるほどの威力に、空中を打撃できるというのも面白い。
しかし、初回の上空まで飛んできた時とは、速度が全然違う。最初のはハンマーとは別の手段だったのだろうか。溜めたら威力が上がるとかかもしれないが、おそらくはものすごい勢いで飛び出すための魔法だろう。大砲などと同じような原理で。なぜなら軌道がぶれずに、とそんな解説をしている場合ではない。
音の壁を超えて平気そうな相手だ、特級の戦闘者であることは間違いないだろう。
うさみは滑り台の要領で落下を利用しつつ加速してその場を離れた。
走ったほうが速いのだが、多少揺れるので高速だと黒犬さんが酔うかなと思ったからだ。悲鳴を聞く限り余計な配慮だったかもしれない。
結果として、高度が十分の一程落ちたが、何度かこちらの方向転換に追随してきたものの、空中での方向転換には回数制限があったのか、あるいは追いつけないと判断したか、女戦士落ちていった。
そして残った使い魔鳥。
ハンマーの爆発を嫌ってか距離を取っていたのが改めて寄ってくる。
「ばいばい」
その子に手を振って、うさみは魔法をかけた。
鳥の顔面に黒いものが現れる。
うさみが黒眼鏡の魔法と呼んでいる、闇を生み出す魔法。そのまま眼鏡の形状で、サングラスのようなものだ。ただしサングラスどころではなく真の闇で光は通さない。闇を見通す目を持っているか同等の魔法でも使えない限り視界失われる。
振り落とそうとしても、相手の目との相対位置で固定しているので外れない。効果時間は十分ほど。
逃げ切るには十分である。駄洒落ではなく。
こうしてうさみと黒犬さんは逃げることに成功した。




