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使い魔?うさみのご主人様 22

「ということがあったよ」


「は……え……ちょ……何して……ええ?」


 夜。

 お勉強会が終わった後、うさみが別行動中にあったことを包み隠さず報告すると、メルエールは頭が真っ白になった。


「ちょっと待って理解が追い付かない」

「うん」


 うさみに向けて右手を突き出して待たせる。

 落ち着いて整理しよう。

 メルエールは額に左手を当てつつ首を振る。


「洗濯してたら」

「うん」

「ワンワソオ様がやってきた」

「そう」


 この時点でかなり非常識な話であるが、ここまではいい。


「使い魔に襲われたので返り討ちにした」

「した」

「いじめないでと直接言って」

「言って」

「そのあとあたしに惚れてるならやり方考えろといった」

「うん」

「布団の表布置いてきた」

「ごっめーん犬怖いからつい」


 うさみが自分で頭をこつんと叩いた。てへとか言いながら。

 メルエールはイラっとした。


「今日どこで寝るのよ!」

「それはどうにでもなるし重要なところじゃないでしょう」


 怒鳴りつけて頭ぺちんしようとしたが、届かない。なので踏み込んだらするりと入れ違うように位置を変えられ後ろに回り込まれつつ反論される。

 朝の訓練を始めたときから気づいていたけれど、うさみの体捌きはちょっとおかしい。

 隙間を縫うようにするりと抜けられる。


「あんた一体何者? 何が目的なの?」

「メルちゃん様の使い魔(偽)で、メルちゃん様が落第しないようにするのが目的かな」


 そういうことを聞いているんじゃない。

 メルエールはそう叫びそうになったが自制した。

 このちっちゃいのを召喚したのは自分である。

 魔術によって従属させられていないにもかかわらず、協力的である。

 魔術の訓練をしてくれている。

 かわいい使い魔愛好会のみんなと仲良くなれたのにはうさみの行動が大きく寄与している。

 正体と目的はわからなくても、メルエールにたいして実績を重ねてきた事実がある。

 ここで韜晦する以上、問い詰めても言わないだろう。

 メルエールが今後も無事に学院生活を送るために、まだうさみの協力は必要である。

 ならば無理に聞き出さなくとも……。


 などと考えていると。


「そんなことよりメルちゃん様、好きな子をいじめちゃう系男子のことなんだけどさあ」

「へぁっ?」


 変な声が出た。


「そ、それよ。子爵嫡子様があたしにほ、惚れてるってそれどこ情報」

「見ればわかるよ。本人とメルちゃん様は気づいてなかったみたいだけど。愛好会の人も、同じ教室の子は知ってたし」


『これはご主人様には秘密ですけど、ご主人様に惚れてるのにいじめたら嫌われちゃってますよ。お友達に相談したらいいと思います』


 うさみは嘘をついた。

 秘密にしなかった。

 包み隠さず報告したのである。


 なのに年頃の女子(ごしゅじんさま)がどうでもいいようなことばかりを話題にするのである。

 若い女の子は色恋沙汰に目がないのが正しい姿ではあるまいか。

 それなのに話題をそらすなんておかしいよ。

 なのでうさみははっきり聞くことにしたのだ。

 それでどうするんですかー。


「べ、別にそらしてないし、あんたのこともどうでもいいことじゃないからね?……っていうか大嫌い近寄るなってあたしが言ったことになってるんだけど!」

「はいっ! ご主人様が思っていたことを正直に伝えました!」


 うさみがやたら洗練された敬礼をする。

 茶化してやがる。

 メルエールはまたイライラっとした。

 うさみはニコニコしている。いつも楽しそうだなあおい。


「あのねえあんたねえ事実でも目上相手に言っていいことと悪いことがあるのわからない?」


 直接の上司でもなければ実家の領地も別管区で、なにもなければほとんど関わらないで過ごせる相手ではあるが、なにかあれば地位の違いは重大な要素である。

 目を付けられたら大変なのだ。

 すでに目を付けられていたともいえるけれど、今までは実害はなかった。


「勉強会でみんな様子がおかしかったのそのせいよね、もうこれどうするの……」


 どうもすでに水面下で話が広がっているらしいのである。

 うさみの言を真に受けるなら、ワンワソオ黒森子爵嫡子はメルエールに惚れているが、それがゆえにメルエールをいじめ、メルエールがそれに対して使い魔を使って殴り返したのちに大嫌い近寄るなと言った、ということになる。

 さらにそのあと使い魔が、主人に内緒で助言まがいなことを言った。


 なので“メルエールは、ワンワソオが自分に惚れていることを知らない”ということになっているのだ。

 だから、直接的な話をされることはなかった。

 しかし、勉強会の雰囲気に違和感を覚えたのである。

 妙に注目されていたのである。

 それは勉強を教えてくれようという注目のしかたではなかった。

 何か話したそうにちらちら見て来て、どうしたのか聞くとなんでもないと答えが返ってくる。

 そんなこともあったのだ。

 それもこれもこのうさみの所業のせいであったというわけだ。


 メルエールは頭を抱えた。

 考えたくない。

 でも。

 嫌いなやつに実は好かれててこっちより偉くて大嫌い近寄るなって怒るよねこれでもえいやいや待って本人気付いてなかったって何。

 あーもう意味わかんない。

 どうすればいいの。


「なるようになるって」


 うさみが気楽に言って、メルエールの肩をポンと叩いた。

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