戦争初心者うさみ 78
「居た居た」
「ひえぇぇ」
うさみと黒犬さんはたぶん上空千メートルくらいのところに立っていた。
正確には黒犬さんはぶら下がっていて、たぶんなのは正確に測る手段がないからだ。
犬が苦手が発症しなければおんぶか抱っこするところだが残念ながらダメだった。
しかしながら、縄でつなぐことで普通に抱えるよりも安心できるかもしれない。黒犬さんの反応を見るとそうじゃないかもしれない。
「寒いであります……」
「あ、ごめん。これつかって」
「はい? うわあ!?」
あったかいゆたんぽを投げ渡すと、思いのほか重かったようで慌てた声と鈍い音が上がった。
魔法を使えば使うほど目立つので控えめで。防寒は魔法に頼らない方向だ。
空にいること自体は、うさみなら低コストで実現できるのと、その上に鳥の羽を利用しての偽装魔法で、普通に見つかっても、なんだ鳥か、とごまかせる。
これ以上のことをすると、魔法に焦点を絞った索敵を受けた時、逆に目立つのだ。
これらは、今まで戦場の近づかなかったうさみの経験からくるものであるので、これでも絶対ではないのが若干の不安であるが。
「あれ何人くらいいるかな」
「そうでありますな……」
眼下、豆粒のような人間が列をなして移動している。
ここは敵、帝国の領内にある中で最もカ・マーゼ王国に近い都市と国境との間、の上空である。
カ・マーゼ王国から街道に沿って移動してきたのだ。空を。
裏道や道なき道の可能性はあったが、そっちはそっちで別に斥候が出ているし、大勢通るには向いていないし、進軍に時間がかかるなら多少情報が遅れてもセーフだし、本命に居なかったら別ルートを見ながら帰ればいいだろうと、黒犬さんと相談して決めたのだ。
ともあれ敵を確認できたので情報をまとめて、伝えに行かなければならない。
パラパラと少数が散らばっているのは向こうの斥候だろう。
いや、自国内から入念にやっているということは斥候狩りか。
見つかったら殺されるのか、捕まって情報源にされるのか、あまり考えたくない。
上空にいるのもいつバレるかわからないし、早いところ帰りたいのがうさみの正直な気持ちである。
「うちの倍ほどでありますな。油断もしていないようで」
「倍かー」
聞いたところによると国力では数十倍だという話であるので、二倍を出してくるのは片手間だろう。
片手間じゃなくても実際にいるんだから当座の状況は変わらないが。
徒歩が大半、荷車も並んでいるが、必要日数と人数を見た感じ、足りるかどうか怪しい。街道沿いの村や街で補給しながら進むものと思われる。
あるいは後続で追加で輸送するのか。
この辺りは過去の事例があるだろうから、うさみが判断しなくても大丈夫かもしれないが、帰り道の村や町の様子を見ておくくらいはしておくか。
などと眺めていると。
鳥が一羽、近づいてきていたのに気が付いた。
下ばかり気にしていたので、水平方向への注意がおろそかになっていたのだろう、気づくのが遅れた。
猛禽である。
鷹か鷲か区別がつかないが、飛ぶ姿がかっこいい。
ウサギとか捕まえて食べてそうな顔をこちらに向けて、ぎょろりと睨みつけている。
ような気がする。
「見つかったかな」
「なんですと」
多分使い魔。