戦争初心者うさみ 77
「そういうわけで斥候だって。一戦終わるまで出張になったよ」
「こちらは三十人ほど協力を取り付けた。奇襲部隊の道案内につくようじゃ」
うさみは出発前にエルプリと会っていた。
といっても最近絶妙に暇だったので毎日会っていたわけだが。
七割さんから受けた指示は、敵の進軍状況を伝える斥候。
軍の通り道を見張って軍勢の到達の連絡、そして規模や装備など観察してを報告する役目だ。
戦場予定地よりも奥まで入り込む必要があり敵の斥候や見回りに出会うこともあるので大変危険である。
相方は黒犬。苦手な相手だが他に組んだことのある相手もいないし、選択肢がないので我慢してねということだった。
うさみたちのチーム以外にも順次うごいているそうだ。間違って同士討ちとかしないように注意しないといけない。
一方、エルプリは同族の説得の方で進捗があったらしい。
うさみのいないところでも状況が動いている。
エルプリがしっかり役目をはたしているようだ。子どもに無理をさせることに後ろめたさはあったが、本人が嬉しそうに話す姿を見ると、いくらか気休めになった。
なんせ人族の貴族教育とエルフの説得に加えて、うさみから魔法を習ってもいるし、腕輪に宿る精霊とのコミュニケーションを試行錯誤したりもしている。
うさみと比べてとても忙しい体なのである。
責任感からか、向上心からか、あるいは使命感からか、本人の士気は大変高く、若さに任せて様々なことを貪欲に吸収している。しゃべり方は古臭いが。
「魔法の練習もようやくといったところなのじゃが」
正直なところ、宮廷魔導師たちより上達が早い。
歌と踊りに力を割いていないのと、元の実力差のせいでもあるが。
エルフとして育った経験と合わせれば一年くらいがんばれば、実践に限れば追いつくだろう。
貴族であれば自衛の、そして戦いの力は必要になってくる。
人族社会は力を持つ者が貴族となって魔物から人族の領域を守ることで成立しているというのが基本なのだ。
王様に嫁ぐのが仮内定しているので役割上絶対ではないが、それでも最低限はできないと軽んじられるということらしい。
とはいえ半ば捕虜のエルプリに戦う力をつけさせることを許すどころか進めているというのは、王様そして出オチ伯がエルプリに対して驚くほど配慮しているということに他ならない。
それだけエルフの力を重視しているのか。
他にすがる者がない藁なのかもしれない。
ロリコンというのは考えたくない。
「練習は無理しない範囲で続けてね。コツコツやってればいやでも上達するからね。片手間でいいから」
「片手間で魔法を使うというのが既にむずかしいのじゃが……。わかったのじゃ」
何なら起きてから寝るまですべての行動を魔法でやるようにすればたくさん上達するだろうが今度は体の動かし方を忘れるのでお勧めできない。
うさみの場合は逆に一日中自身のすべての行動を魔法で妨害することで日常的に両方の練習にしている。自分の体に限れば魔法を使っていることは目立たないし、遂行と妨害という真逆のことを同時に行うことで難易度が上がる。
頭おかしくなりそうになるが慣れれば問題ない。
話がそれた。
「渡したやつは大丈夫?」
「うむ、そこの鉢におるじゃろ?」
エルプリが指した先には、樹木化したエルシスと同じ種類の木の枝が植木鉢に挿してあった。
森に作った結界の元とも同じ種類だ。
これが何になるかといえば、まあ気休めのお守りである。
二人で植木鉢を見つめる。
しばらくして、エルプリが口を開いた。
「うさみよ、この戦争には勝てるのじゃ?」
「十中八九勝てないよ」
うさみは即答した。
量も質も相手が上。
そして仮に今回の一戦をどうにかしのいでも、国としての土台が違うのだ。
時間稼ぎにしかならない。
「まあそれでも万が一を拾うためにみんな頑張ってるんだよ」
なので稼いだ時間でどうするかという話になる。
とはいえ、やはり時間を稼げなければどうにもならないわけで、下っ端としては目の前の問題に対処していくしかないのだ。
いや、エルプリは偉い人に嫁ぐのだから視野を広げるべきなのか。
今にも滅びそうな、故郷の仇の国という場所で難しい立場にいるエルプリだ。
できるだけ近くにいてあげたいが、うさみも実績を上げなければならない立場であるので、常にというわけにはいかない。
「うさみ、帰ってくるのじゃ」
「うんまあそこは約束する」
こうしてうさみはエルプリと別れた。