戦争初心者うさみ 74
うさみの身長の五倍はある巨大な岩塊から、うさみの体よりも太い腕と脚が生え、岩にもかかわらず人間の手足のように柔軟に動き、振り回される。
拳がかすっただけで命を奪えるだけの質量。
その動きの圏内で、うさみが。
歌って踊って仮想キーボードから伴奏を響かせ、色とりどりの光をまとって地上十センチくらいの見えない足場で岩塊の腕と脚の合間を縫うように跳ねていた。
岩ゴーレム。
主に魔法儀式で製造される人造魔物の一種でコストに目をつむれば兵士以上の戦力になる巨大兵器である。
金属ゴーレムと比べると高いコストの中ではいくらか用意しやすく、戦力としては金属より脆さはあるが並の手持ち武器ではびくともしない。
巨体そのものが武器になるし体に見合ったパワーは土木建築にも役に立つし魔力源である核を取り外せば岩塊に戻るので、岩をゴーレムにして岩を運ばせて元に戻せば二倍運べるが輸送費より魔法儀式にかかるコストの方が高いのが難点という話がそれた。
巨体ゆえの鈍重さはその巨大さでカバーされるが、今は宮廷魔導師たちの魔法でさらに遅くされており、しかしその攻撃力を増幅するための魔法も重ねられているので少し気を抜けばあっさりミンチになるのは明白だ。
命の危険は強烈は圧力となって行動を阻害する。
うさみは歌はそんなにうまくない。普通だ。
人に聞かせる前提で練習をしてはいないので多分あまりうまくない。地球時代にカラオケなんかには行ってたけれど、特に上手いとか下手とか言われなかった。普通。
ただ、それだけに記憶の音程を伴奏と合わせて再現しなくてはならないのでなかなか大変だ。
大変ということはそれだけ集中が必要な魔法の行使を阻害する。
音を出すのも魔法であるので当然難易度も上がる。
踊りの方はまあそこそこだ。創作ダンスで先生に褒められたこともある程度だが。体を動かすことそのものは好きだし。
動いてないと岩塊の拳に当たって死ぬので動かざるを得ず、しかし歌っているなら踊りが合う。
リズムに合わせて動くのは難易度を下げるかもしれないが、歌いながら演奏しながら踊るのは別方向で難易度が上がる。
歌と踊りに合わせて光を躍らせる。
特に意味はないが、魔法の練習としては無害且つ難易度としてもちょうどいい。
魔法はイメージが重要といわれるが、神の加護任せでやっていれる限りはあまり重要視されない。神の加護を利用すれば自然と必要十分なまでに鍛えられるので。
しかし、自身で開発し扱うとなるとそうはいかない。
特にうさみはゼロスタートを幾度となく経験しており、また経験することになるために、神の加護頼りでは足りないのだ。
では具体的にどれくらいのイメージちからが必要かというと。
魔法を使わずに炎を想像して、自分でそれに触れたらやけどを負うくらいは最低でも必要になる。
それほどの想像力は、無垢な子どもか鍛え込んだ大人かでなければ発揮できず、天然の魔法使いは三十歳以上でなければ見つからないとかなんとか。
いつ聞いたのだったか。
ともあれそのイメージちからを鍛えるには歌と踊りに合わせた光の演出は悪くない。
録画してチェックできればもっといいが、今回は人に見せるのでちょっと張り切っているだけで普段はストレス解消とか気分転換程度でそこまでこだわらない。引きこもって一人で何してるんだろうと思うこともあるがうさみは元気です。
まあこのようにどんな方法であれ難易度を高めることでより神の加護の熟練度を上げられるのだと。
そういうことを知ってもらえればいいのだけれども。
なぜかドン引きされていた。
あれー? と首を傾げていると、うっかり岩塊の拳に当たりそうになった。