戦争初心者うさみ 73
「だが、使える魔力量がすくなすぎる」
「効果などわずかでいいのだ、回数こそが重要」
「しかしどうせなら役に立つ方がいいだろう」
宮廷魔導師たちが意見交換しながらそれぞれ魔法を作っている様子を見て、うさみは楽しそうだなあと思いながらも、先に進めることにした。
「えっと。練習用の魔法は何個あってもいいからあとで作ってもらって、とりあえず次に進むよ。今のは当たり前のことだけど、次はちょっと珍しい話になると思うから」
限られた魔力で十分な練習をするために、消費の軽い魔法を作って回数を重ねる、というのはおかしな発想ではないはずだ。
魔法を特別視してもったいぶって秘蔵するのでなければ、そして魔法そのものではなく魔法を使う技術を鍛えるという視点に立てば辿り着くだろう。
しかし、次に教えるのはある種のイカサマである。
「珍しい、かね」
「うんまあそこは掘り下げても仕方ないから。今のは練習に使う魔法のことだったけど今度は練習の方法について」
うさみは【レベル】の話をした。
つまり、他者を殺すことで強くなることと、その強さの度合いをレベルと呼んで、レベル差によってスキルやクラスの熟練度獲得量が増減する話をしたのである。
強い相手と戦い、殺すことで大きく成長することがあるというのはこの地方でも把握されていることだ。
例えば十回に一回しか勝てないような相手と戦い、一回を引き当て生き残ると格段の成長をしている、というのは魔物との戦いが身近なこの世界ではありがちな話なのである。
ただ、それを真似ようとすると当たり前だがうまくいかない。
十人に九人は死ぬのである。
ここまでが常識だ。
「でも例えばすごい強いゴーレムを作って、魔法ですばやさを落としてその代わり攻撃力をめっちゃ上げて、逃げながら魔法の練習するの。そうすると、簡単に攻撃をよけられるのに命の危険があって、強い敵と戦ってることになって神の加護の熟練度がいっぱい増えて効率よく鍛えられるんだよ」
他の条件もいろいろと影響はあるのだけれど、判定の基本がレベル差なのだ。
動きを阻害する分だけ危険度を上げれば相殺できるし。
うまい事調整すれば、漫然と繰り返すだけの練習の何十、何百倍の効果を得ることもできる。
これで以前の生などで人を育てた実績もあるのでうさみ自身でなくても再現できることは実証済みだ。
まあ、命の危険と対峙しなくても行為の難易度を上げるだけでも効果はあるのだが。
危険な方が段違いに効果が高いのは事実なので。
「それとレベルを一にする魔法を使ったらもっと効率が良くなるけれど、命を狙われてたりすると危ないから立場がある人とかはやめた方がいいかな」
そうじゃなくても事故があると死ぬから気を付けないといけない。
話し終えてから見ると、宮廷魔導師たちはそろって青い顔をしていた。
「正気じゃねえ」
「なんだこいつ」
「命を何だと思っているんだ」
ひどい言われようである。
人様の家を攻めて焼き払った人たちとは思えな……紅の森は元祖さんたちが中心だったか。まあどっちでもいいけれども。
「その、レベルを一にする魔法というのは大丈夫なのか」
なにが? と問い返す前に。
「エルフが言う【レベル】は神に与えられたものであるのに、魔法で真逆の真似をして天罰などを受けることはないのか、と長様はおっしゃっている。私も同じ思いだが」
部下魔男さんが説明してくれた。
うさみは魔法使いでも意外と敬虔なのかな、と小首をかしげた後。
「思い当たる範囲では特に害はなかったよ」
と返した。
体が成長しないのはその魔法を使わなかった時も同じだったのだ関係ないだろう。うん。