戦争初心者うさみ 72
「まず基本として、魔法を扱う技術は神の加護で習得できているはずだから、魔法を使うか使った上で殺すかで鍛えられるわけだけど、殺す相手には限りがあるから、魔法を使って鍛えるのがいつでもできるし便利なわけ。だから必要な魔力が限りなく少なくてかつ使うのに魔力操作が必要でどんな時でもお手軽に使える、そんな魔法を適当に作ってね」
「長い」
「な、長い?」
「お主の冗長な論文よりは短いがな」
「余計な茶々を入れるなと長様はおっしゃっている」
「ぐ、むう」
「だが、適当に、とな」
うさみが考えながらしゃべっていると、宮廷魔導師漫才が始まってすぐ終わった。
漫才の後はディスカッションのように各自が発言を始める。
「必要な魔力が限りなく少なく、使うのに魔力操作が必要というと」
「どんなものだ。火の玉でも浮かべて動かすか」
「どんな時でもとなると火は危なかろう」
「でも私火炎術師だから」
わいわい。
嫌々だったはずがなんだか楽しそうにも見える。
彼らはうさみが気にくわないだけで魔法のことを考えるのは好きなのかもしれない。
「えっと、魔力消費は常時使って自分の自然回復量で賄えるより少ない方がいいかな。十秒に一回使うなら十秒で回復する分、一秒に一回使うなら一秒で回復する分」
「十秒に一秒?」
「回復量ときたか」
「眠らずに回復する量知れているぞ」
「だが訓練で魔力を使い切るのも困るし融通利くように半分くらいの方がよくないか」
「それではますます何もできない魔法になってしまうぞ」
がやがや。
蚊帳の外感を覚えるうさみ。話題を主導してるのに置いてかれてる感じがするのも珍しい。
と思っていると。
「エルフよ。お主はどのようにしているのだ。参考例が欲しい」
話が跳んできた。
「参考例ねえ。足の下に魔力力場を作って消して作って消してを繰り返すとか」
というと、一同の視線がうさみの足元へ集まる。
「んん? 浮いているということか? よくわからんな。今もやっているのか」
「うんまあわからないように薄くしてるから。歩くのに合わせてやると便利……ってスカートなんだけど! 覗き込もうとしないで!?」
うさみはスカートを抑えた。
一人が足と地面の隙間を見て確認しようとしたのか、地面に頬をつけていた。
「子どもに興味はないので気にすがふっ」
部下魔女さんが横になってる人のお腹のあたりを蹴り飛ばした。
真似しようとしたのか、しゃがみかけていた二名ほどが、なぜか股のあたりを押さえて前かがみになった。
「あとは自分の周りの気温を一定に維持するとか、小石を浮かべておくとか、お肌をしっとりさせるとか」
「ふむ。属性は何でもよいのじゃな?」「お肌について詳しく」
宮廷魔導師長と部下魔女さんの声が重なった。
「あー属性、うん。なんでもいいっていうかどうでもいいっていうか。得意なやつにして伸ばしても苦手を補強するのでも? 属性とか考えなくてもいいよ。さっき言ってた火の玉を動かすみたいに常に操作に意識を取られるようなのはいいと思う」
「お肌」
「ごくごくわずかな水を体の表面にまとわせたらいいんじゃない。多いとふやけるし普通に化粧水使った方がいいと思うけど」
「魔法で化粧……!」
その発想はなかった、目から鱗だみたいな顔からやる気に燃え始めた部下魔女さんは置いておいて。
魔法を使えば使うほど、あるいは維持が必要なら維持すればするほど、練習になって神の加護、つまりはスキルに熟練度が入るのだから何でもいいのだ本当に。
せいぜいが、練習用の魔法で普段必要な分を使い過ぎないとか、何か危険がないようにするとか、気を付けるのはその程度でいい。
エアコンとか、空中歩行とかちょっと便利になるような効果ならなおいいが。