戦争初心者うさみ 70
「では早速たのむぞ」
宮廷魔導師長をはじめ、ずらり……というにはちょっと少ないが六名の今手が空いている宮廷魔導師が並ぶ前に、うさみは立たされている。若干きまずい。
周囲を石壁に囲まれたこの場所は宮廷魔導師専用の魔法の練習場だそうで、地球時代うさみが通っていた小学校の校庭くらいの広さがある。
お城の一角にそんなスペースとるのはもったいない気もするが、話を聞くと宮廷魔導師の実力を隠蔽するためのものだという。
つまり、戦争の相手に対して主力の魔導師の実力がばれると困るということ。
聞く限り負けっぱなしなんだからバレるも何も無いだろう、なんてことが、うさみの頭をよぎったが、この場所を用意した時点で負けるつもりではなかっただろうから。
秘密特訓して逆転するにも秘密にできる場所は必要だ。うさみはそういう展開は割と好きであった。実際に可能かどうかは置いといて。
ともあれ、魔法の練習の時間ということになった。
パウンドケーキ焼き機は急ぐ必要がないということに気づいてから、場所を移して人を集めてと動くのはすぐだった。
見習い含めて老若男女六名が多いのか少ないのかというと、少ないような気もするしそんなもんかなとも思う。小国でもあるし、そもそも基準がわからないのもある。
まあそれはそれとして。
「なんで人増えてるの」
「三人も六人も変わるまい」
「変わるでしょ」
苦情は入れておきたいところである。
なぜなら。
「長様、このような小娘に何を教わることがあるというのですか!?」
みたいな流れになるからである。
だいたいこの後何人か追随してやいのやいの騒がれてけなされたりして気分が悪くなるのだ。
かといって、いちいち言い返すのは悪手で火に油を注ぐだけである。
黙らせるには実際に証明するしかない。エルフの時もそうだったが。
そもそも別にこちらが教えさせてほしいわけではない。
こうなるとやる気をそがれるばかりで――。
「やかましい!」
「気に入らぬなら通常業務に戻れと長様はおっしゃっている」
宮廷魔導師長の一喝で、騒いでいた魔導師が静かになった。
ついでに、自分も文句を言っていた部下魔男さんがフォローする。
部下魔男さんの考えが改められるような出来事は思い当たらないので、純粋に宮廷魔導師長の考えを代弁しているだけだろう、多分。
一方部下魔女さんはどちらに与するわけでもなくニヤニヤしていたのでスルー。
叱られた宮廷魔導師三名は、それぞれ渋い顔、あ、やべって顔、不服そうな顔で背筋を伸ばして黙った。
立ち去る様子がないことを確認して。
「エルフよ、始めてくれ」
宮廷魔導師長が改めて言った。
この空気でとか勘弁してほしいとうさみは思った。