戦争初心者うさみ 69
「約束を果たすべき時だぞ、エルフ」
「長様に頭を下げさせたのだから、それだけの対価を求める」
あれから数日。
元祖さんの手伝いが一応終わり、解呪砲がうさみの手を離れたのはいいが、上司の七割さんは依然忙しく、うさみの立場は浮いていた。
暇である。
でも、お金もないし、かといって命令待ちでは稼ぎに行くわけにもいかず。
仕方がないからエルプリのところに日参しつつ元祖さんのところでお手伝いをしていた。
といっても、見た目子どものうさみに重労働は回ってこないのでお茶の準備とか掃除とか整理とかばかりだったが。
二日目から元祖さんからバイト代が出るようになり、元祖さんのアトリエのおやつが少し豪華になった。
ごく短期で小銭をためても仕方ないし、全部使うからだ。宵越しのカネは持つが朝使うのがフリーターうさみである。生活費会社持ちだし。
そんな生活をしていると、宮廷魔導師長が、部下を連れて寄ってきたというわけだ。
部下魔男さんが代弁しないで自分の言いたいことを言っているのは珍しい。
解呪砲の改良は、元祖さんのターンらしく、宮廷魔導師組はちょっと時間が空いたらしい。
そこで先日約束したような話を再び持ち出してきたというわけらしい。
「いいけど、今日のおやつ準備できてからね」
「うむ」
「今日のおやつは何だと長様はおっしゃっている」
「今日もパウンドケーキだけど、果物が昨日とは違うよ」
パウンドケーキ、正確にはパウンドケーキもどきは、レシピが簡単なのであまり調理環境が整ってなくても作れるお菓子で、結構なぜいたく品でもある。
中に何も入れなくてもいいが、果物などを入れることでバリエーションを楽しめる。
昨日はナッツと干しブドウだったけれど、今日はリンゴだ。
日本ではリンゴは素で甘いのであまり火を通さない。それこそお菓子くらい。
でも品種によって酸っぱいのだということをうさみはこの世界で味わった。文字通りに。
まあ地球のリンゴっぽい別のものなのかもしれないが。
ともあれ、火を通すと甘く美味しくなるのでこっちのリンゴも素晴らしい。
とはいえ、みずみずしくて甘いのも好きなので暇があれば五百年くらいかけて品種改良してもいいのだが、今生はそういう感じではないので。
手すきの間に部屋の中にあった材料をもらって作った魔導オーブンで時間と温度を設定すればひと段落。
「おまたせー」
「エルフそれは何だ」
「パウンドケーキ焼き機」
「便利そうだな。作ってくれんか。報酬は出すぞ」
「パウンドケーキのレシピも教えてくれと長様はおっしゃっている」
パウンドケーキ(もどき)気に入ったらしい。
うさみはちょっと機嫌をよくした。
「いいけど、すぐだったら魔法の練習できないよ」
「む」
宮廷魔導師長はしばらく考え込んだ。