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使い魔?うさみのご主人様 21

 服とか布団とか下着とかか風になびいている物干し場で、大型犬魔獣の使い魔を連れたワンワソオ黒森子爵嫡子と、布団の表布をたたむ途中で手を止めていたうさみが対峙して、言葉を交わす。


「そんなことのためにこのような場所いらしたのですか」


「そんなこととはなんだね! 大事なことだよ。さあ、主人を守れるかどうか試してやろう!」


 ワンワソオが使い魔を前に出すと、使い魔エルフがはっきりとひるんだ様子を見せる。


 犬に弱い、いやそうでなくとも明らかな弱点がある使い魔で主人を守れるとは思えない。

 ワンワソオはやはり自分の判断の正しさを再認識する。

 使えない使い魔はさっさと交換すべきだ。


 もはや長々と言葉を重ねるつもりはなかった。

 時間をかければメルエールや、その周りに急に現れた女子たちがやってくるかもしれない。

 わざわざ使い魔が単独行動しているところを狙ったのである。

 邪魔が入っては本末転倒だ。


 ワンワソオは指示を出す。


「使い魔戦闘遊戯だ。やれ、デンクライ!」


 やれ、の一言。

 それだけでワンワソオの大型犬型魔獣の使い魔デンクライは凛々しい強者のものから、敵に喰らいつく荒々しい襲撃者のものへと、まとう雰囲気を変える。


 そして、間髪入れずにうさみにとびかかった。


「きゃあああああ!?」


 上がる悲鳴。

 ワンワソオも、野次馬の洗濯のお姉さま方も、犬型魔獣よりも体重の軽そうな小エルフが肉会に変わることを予想した。

 あまりにも容易に想像できるその姿に、悲鳴を上げたのはお姉さま方。

 思わず手で目を覆う者もいた。


 しかし予想は裏切られる。


 結果だけを言えば、犬が布で梱包された。




 □■□■□■




 ワンワソオは不敵な笑みを浮かべたまま、表情を硬直させていた。

 何が起きた?


 使い魔エルフが手に持っていた布を投げつけてきたのは見えた。

 悪あがきだ。

 しかし、投げつけられた布は思いのほかはやく広がり、視界をふさぐ。

 このままでは突っ込んで包み込まれてしまうかもしれない。

 そう判断して、エルフに飛びついてかみつき杖で引き裂こうとしていたところを、布を引き裂くことに切り替える。

 狙ったのなら思いのほか有能かもしれない。

 少しだけ評価を上げたが、しかし所詮は一時しのぎ。


 と、思ったところで。


 布が使い魔デンクライの頭に巻き付いた。

 そして使い魔デンクライがぐるんとひっくり返された。

 続いて布が胴に巻き付く。


 最後に、巻き付いた布を手掛かりに、背中合わせの形でエルフの使い魔が、使い魔デンクライを背負った。軽々と。

 ここまで、使い魔デンクライがとびかかって宙に浮いている間に起きた出来事だ。


「な、なんだと……?」


 梱包された使い魔デンクライの顔部分から、くぐもった音が漏れる。

 顎の部分はしっかりの布が巻き付き、開くことができない状態になっていた。

 自由な足を使ってもがこうとするが、相手の拘束から逃れることができない。


「ああ怖かった。ワンとか言われなくてよかったあ」


 エルフは自分より体格のいい犬を背負ったままそんなことを言っている。


「馬鹿な、いやこれがエルフなのか……?」


 目の当たりにしても信じられない。

 信じられないが、目の前の事実がすべてだ、否定しようがない。

 恐るべき手際だった。

 え、いや人族と大差ないですけど、などといっているが人間にこのようなことができる者はそうそういないだろうというか見たことがない。

 恐るべきはエルフ……!

 ワンワソオは警戒度を高めると同時に、評価を上げる。

 貧弱な見た目で油断させ凶悪な能力で奇襲を行う。これは卑怯だが有効な戦術だ。

 今思えば犬を怖がる仕草も演技なのではないか。

 このようないやらしい手を使ってくるのであれば過去エルフと敵対した軍が苦戦したのもうなずけることだ。


 ワンワソオは表情が固まったまま、歴史のことにまで思いをはせた。


「あの、子爵嫡子様、わたしの勝ちでいいですか? だめならこのまま川に投げ込みます」


「あっ、なっ、待て! 認めよう。貴様の勝ちだと」


 恐ろしいことを考えるエルフである。

 あの状態で水に入れられれば強靭な生命力を持つ魔獣でもおぼれてしまうのは想像に難くない。

 ワンワソオはやはり危険な者だと評価した。

 メルエールの付随物ではなく、この使い魔エルフを。


 そして、これだけの力を秘めているのであればメルエール嬢を護る使い魔として認めてもよいかとも思う。

 使い魔である以上、主の意に反した行動はできない。

 腹黒くいやらしい戦術を使う者でも、味方であれば使いようもあるだろうと。

 我が使い魔を手玉に取る実力があるならば。悔しいがそれは認めざるを得ない。


 ワンワソオがそんなことを考えていると、使い魔デンクライをおろした使い魔エルフが口を開く。


「あ、ご主人様が、なぜいつも意地悪をするの大嫌いもう近づかないでください、と」


「な、なに?」


 無造作に言い放たれた言葉が、ワンワソオに衝撃を与えた。


「これはご主人様には秘密ですけど、ご主人様に惚れてるのにいじめるから嫌われちゃってますよ。お友達に相談したらいいと思います」


「は? 惚れ? いじめ? なん……え?」


 さらなる追撃にワンワソオは混乱の極みに陥った。

 意味が分からなかった。

 意地悪とはなんだ。

 惚れてるとは一体。

 いじめ?

 大嫌い……大嫌い? 近づかないで?

 え??


 そうして思考が止まっている間に、使い魔エルフは姿を消していた。

 梱包された使い魔犬を残して。

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