戦争初心者うさみ 65
前に一人、後ろに一人、鎧の兵士、いや騎士かな? まあ護衛に護られてはいってきたのは、若干悪人顔、いやこれくらいならむしろ渋カッコいいの範疇だろうか、四十前後と思われるおじさまにエスコートされたエルプリだった。
幾重にも花をイメージしただろうデザインのレースに彩られたドレスと同じくレースのリボンに包まれたエルプリはそれはもう大層可愛らしい。
ちょっと緊張していたのがうさみに気づいてにっこりと笑みを浮かべるところもまたよい。
やはり子どもはずるい。
子どもらしくしていても、大人ぶっていても可愛らしいのだから。
うさみがそんなことを考えていると、宮廷魔導師長と元祖さんが作業を中断して出迎えに現れた。
「デ・オーチ伯、どうしてこんなところへ」
「閣下! よく来てくださいました!」
エルプリの連れのおじさま。
うさみも初めて見るが、彼がデ・オーチ伯なのだろう。出オチって感じの姿ではないが。
当代の王様派閥の一角であり、王国の軍需物資を管理する部署のトップらしい。
王国軍のトップ五人の中に入る立場の人である。
つまり、王様、王国騎士団長、宮廷魔導師長、近衛騎士団長、そして王様直属の軍事会計長官である出オチ伯がこの国の軍事のトップなのである。
同時に、元祖さんの限りなく上司に近い同僚にあたる。
未だ王様の客分扱いである元祖さんたちは厳密には王国の組織に組み入れられていないのだが、新兵器の開発が軍事の会計に関わらないわけはなく、予算は出オチ伯の組織を経由しているのだ。
もちろん、宮廷魔導師長とも知り合いで、同僚である。
役職の格としては宮廷魔導師長の方が上なのだが、爵位は伯爵の方が上という難しい関係であるが、二人の態度からして大体同格くらいに思えばいいはず。
「ええてええて。今日は“娘”の話をな、聞きたいゆう話やからな。こういう場所でもあることやし、堅苦しいのはナシでいこうや」
「お気遣いありがとうございます!」
訛っている。
これが出オチか。ゴリラほどじゃないなあ。
と思いながら見ていると、出オチ伯に紹介されて、エルプリが前に出る。
「デ・オーチ伯の“娘”エルプリじゃ、よろしくお頼み申し上げる」
しゃべりは変わってないが、カ・マーゼ王国の礼法として十分な作法で頭を下げるエルプリ。
出オチ伯爵の養子にされ、教育を受けている話は聞いていたが、まだそれほど経っていないのにちゃんとできている。エルプリえらいなあかわいいなあ!
と、うさみが見ていると、エルプリと目が合った。そしてエルプリが口の端を上げてニヤリと笑う。どや。
うさみはこくこく頷いて笑い返した。
「でな、見ての通りやが、ワシの娘やからな。ただ今日はそれ以前の話を聞きたいんやて?」
エルフが人族貴族の娘というのはおかしなことで、この場には事情を知る者も知らない者もいる。
出オチ伯はそれを認めた上で余計な詮索を封じた。
まあエルフを攻めての捕虜を得たことは皆知っているので大体の想像はできるだろうが。
なんであれ伯爵の後ろ盾があれば余計な手出しは止められる。
地位と権力万歳である。
「早速じゃが、紅の森に封じられていた剣の話を聞きたいということじゃな?」
「あっはい! ええと」
「メリー、こっち」
急な来訪で準備も何もなかったので元祖さんがどうしようかと部屋を見回すので、うさみが準備しておいた一角へと呼び寄せた。
「こっちで座ってお話どうぞ」