戦争初心者うさみ 64
「エルフよ、その魔力制御の鍛え方を教えてもらえぬか」
「そんな、長様!?」
「かまわん、ワシは、宮廷魔導師長はこの国で一番の魔法使いでなければならんのだ。そして始めなければ事は成らん」
宮廷魔導師長がうさみに頭を下げるのを、部下魔男さんが驚いて止めようとする。
言葉が足りないように聞こえるが、二人の間では話が繋がっているようなのでうさみにわからない何かがあるのだろう。
部下魔男さんはよく宮廷魔導師長の代弁しているし。
ただ、上司が頭を下げるのは気に入らないらしい。部下魔男さんがうさみを見る目が厳しくなった。ような気がする。
まあそれはともかく。
「別にいいけど、今は先にやることがあるよね」
「うむ、そうか。そうだな。手早く済ませるぞ。錬金術士!」
「やっとやる気になりましたか! 遅かったですね!」
「うるさいさっさと始めるぞ」
元祖さんの挑発じみた言葉もスルーして、宮廷魔導師長は魔測レンズを手に取った。
「これでこの剣の魔力を測るのだろ。……一四八六二か。さすがだな」
「現在作成可能な魔剣が放つ魔力が三桁が普通であることを考えれば、破格ですね!」
三桁と五桁では大違いである。
ただ気になるのが。
「問題はこの数値をそのまま参考にしていいかどうかだと思います」
「先日つかった二千程度の魔導具で解呪砲を撃った時の記録がこちら」
「実験で量産魔剣を使った記録はこっちです」
どうやら、余計な口出しは必要なさそうである。難しいことは専門家に任せて、うさみは別の用をすることにした。
ほぼ作業場である、元祖さんのアトリエの隅に応接エリアをでっちあげるのだ。
まあ実務一辺倒の飾り気の少ない椅子と机を並べて軽く掃除するくらいだが。
「何やってるんですか先生」
議論と作業を並行して進めているなかから出てきた元祖さんの部下の一人が、うさみの動きに気づいて寄ってきた。
「お客様が来るから形だけでもと思って」
宮廷魔導師たちもお客様ではあるが、あれは技術者として呼んだのでちょっと違うのだ。
これから来るのは貴族である。
貴族であるからには軍人でもあるわけだけれど、今回はそういう立場で来るのではない。本命は別なのだ。
お湯を沸かしながら机を拭いて、それでも油とか残ってるので布で隠した。テーブルクロスがなかったので素材用の布だ。柄はないが一応きれい。
元祖さんの部下の人が居なかったら、うさみ一人では一苦労だっただろう。
机がなー、高いんだよなー。
そうしているうちに、先触れが来た。
そのあとあまり時間をおかずに本命がやってくる。だいぶ略式であるが、この国の状況を鑑みて最大限急いだ結果である。普通なら、今日連絡してすぐ来ますは通らない。
王様肝いりの事業であり、国家の存亡をかけた切り札であることから急遽話を通したのである。
そしてようやく、この部屋のトップツー、元祖さんと宮廷魔導師長が状況に気づく。
「どうしました!?」
「なんだ?」
「実は……」
先触れの人を応対した部下の人が説明しようとしたところで。
「デ・オーチ伯爵、及びご令嬢、ご入来!」
ガチャガチャと鎧が鳴る音が近づいてくるのに合わせ、先触れの人が室内に響かせた。