戦争初心者うさみ 56
カ・マーゼ王国は五百年前に興った王国である。
エルフの森、紅の森にあった剣は三千年前のものだという。
それだ。
「あー、あーあー!」
「それ以上のことは聞き出せませんでした! まだ怒っているようです!」
「だろうね」
故郷を焼いた相手である。
まあそのあたりのことは今感が合えても仕方がないのでさておき。
五百年前の勇者がエルフに剣を預けたわけではなかったのだということは、勇者の子孫だからカ・マーゼ王国で剣を預かってもいいじゃないという主張が的外れだったということだ。
いやそれもこの際どうでもいいのだけれど。
先に王家の資料を申請したのが無意味になった。王家側に三千年前の情報があるわけがない。
まあこれも重要なことではないが。
なーんか違和感があると思っていたのだ。
ようやく合点がいった。というか思い出した。
エルプリと、木になったエルシスから聞いたのだ。
三千年前だと。
なんだっけ、魔剣死紅って言ってたよね。
うさみは例の剣、魔剣死紅に目をやった。
岩に覆われていない部分がぬるりと赤く光ったように見えた。
しかしまあ、これですっきりした。
ずっと引っ掛かっていたのだ。
すぐに思い出せないとは。歳かな。
いや、いろいろあったからだと思おう。
にしてもこれはどうしたものか。
ここでうさみが知っていることをしゃべってもいいものか。
そもそも大したこと知らないんだよね。
エルプリなら一通り知っていると思う。
うさみが知っていることはエルプリに聞いたことだ。
それに、エルプリは紅の森のエルフたちが最悪の場合一人でも生き残らせようとしていた子――うさみの推測ではあるが――であるので、口伝の類があるなら教えられていてもおかしくない。
ここでうさみが口を開いたとしても、結局エルプリに話を聞きに行くことになるだろう。
であれば、エルプリの手柄にした方がいいかもしれない。
自発的に情報提供したとなれば多少なりとも扱いがよくなるかもしれない。
あるいは、エルプリが話さないという選択も残すことが出来る。
魔剣死紅を使い潰して兵器にするということをどう受け取るかわからないのだ。
普通に考えれば反対するものだろう。
三千年死蔵されていたものであることを考えたら利用価値があるなら無くなってもいいと思うかもしれない。
とりあえず話を持っていくことにしよう。
うさみはそう判断した。
「わたしもちょっとあたってみるよ。裏切り者扱いされるかもだけど」
とはいえ、子どもに決めさせることじゃないかもしれないなあ、とも思いつつ。
元祖さんに提案する。
とりあえず先に捕まっているエルフたちにあたってからだ。
期待薄だが、元祖さんとうさみは立場が違うので何か出てくるかもしれない。
もっとも、故郷を焼いた相手と、助け出そうとして失敗し状況を悪化させた奴なので悪感情を持たれている点では同じなのだけれど。
彼らにとって、うさみは八つ当たりするのにちょうどいいところにいるのだ。
もともとあんまりいい感じじゃなかったのでなおさらである。
本命はエルプリということは、まあ形だけでも隠しておく。
エルプリが言わないことを選んだ時のために。
「助かります! 先生よろしくお願いします!」
「先生万歳!」
「ゴチっした!」
「幼女万歳!」
「最後言ったの誰?」
うさみは幼女ではない。
結構なおばあちゃんである。ぷんすか。