戦争初心者うさみ 55
「戻りました! ……?」
元祖さんが肩を落として帰ってきたとき、研究室だかアトリエだかは花の香りに包まれており、部下の人たちは泣きながらサンドイッチを貪り食っていた。
サンドイッチというかハンバーガーというか、パンに具材を挟んだものだ。
うさみのイメージだとサンドイッチというと食パンなのだが、この辺りではパンは丸いのが基本らしかった。まあどっちでも。
「うめぇ、うめぇ」
「いきかえる」
「おお……おお……」
「何事ですか?」
「や、やることなくて暇だったから」
疲労回復に役立つ魔法を使ったのと、軽食を用意しただけだ。
そんな泣くほどのものでもないのに、と用意したうさみはちょっと引いていた。
パンが結構高いので肉でかさまししたものや、焼いた果物を挟んでいる。
そこらで買ってきたものを組み合わせただけである。
お金を使い切ったうさみが七割さんにせびってもらったお小遣いから予算を捻出しているのでたいしたものは買えなかったし。
魔法もうさみが初めて覚えた魔法の中の一つであり、つまり初歩的な魔法……いやそうでもないか。覚えてしまえば手軽に使えるもの、といったところか。
さわやかな花の香りがする水を生み出す魔法で、このにおいがリラックス効果を持っており、また、飲むと疲労回復力が高まるというものだ。
お茶の代わりみたいな。
もしかしてリラックスしたせいで涙腺が緩んだとかだろうか。
徹夜明けとか疲れてるのと合わせればそんなこともあるかもしれない。
「やることがないとこうなるのですか! 先生おそるべし……」
「いやあの」
まあ控えめに言ってうさみ本人も引くくらいの惨事なので、元祖さんが声を震わせるのもわからないでもないが、とりあえずうさみは弁解した。
疲労回復の魔法と軽食を用意しただけだよと。
「いや余計なことかと思ったんだけどみんなすごい顔で仕事してるなかで何もしないのもねほらちょっとね」
「先生に期待している仕事はそういうことではないですが! この疲労回復の魔法はいいですねすごくいいです!」
「でしょー?」
言い訳がましく言葉を並べていたうさみは、魔法を褒められてニッコニコになった。
リラックスが過ぎると眠くなるという欠点はあるが、慣れれば常時使っても平気になる。疲労回復速度が約二倍になるという効果は、疲れているときに使うと体感でわかるほど破格である。
水分補給もでき、まあその分器がないとちょっとはしたない感じになるが、それを置いても費用対効果が高い洗練された魔法だ。うさみが作った物ではないからだろう。
初めて覚えた魔法の一つということもあるが、繰り返すこ世界以前の思い出はやはり少し思い入れが違う。
「気に入ったなら覚えてみる?」
「よろしいのですか!」
「やった! これでもっと働ける!」
「客人様バンザイ!」
元祖さんが驚き、部下の人たちが盛り上がる。わっしょい。なんか胴上げされた。
客人様て。いやまあいいけど。あと投げ上げられるのちょっと怖いものがあるなと、うさみは思った。自分で跳ねるのは平気なのだけれども。
「水属性と木属性の複合……」
「全員が覚えられるとは……」
「先生万歳!」
変なテンションが続く中魔法を教えた。この人たち徹夜でハイテンションなんじゃないだろうか。
何人か魔法使いと錬金術士の軋轢を気にしているものがいたが、バレなきゃ大丈夫だよということで周りに説得され、結局全員に習得させることになった。
半日がかりだったが、あれだけ追い込まれてた仕事は良かったのだろうか。
という懸念をうさみが口にすると、元祖さんが思い出したように、というか忘れてたなこれ。
「あ、そうです! 大変です! あの剣三千年前のものでした!」
「へー。……え?」