戦争初心者うさみ 49
「おー」
カ・マーゼ王国の最高軍機のひとつであるところの解呪砲を解体して構造を調べたうさみは唸った。
ある種の芸術といっていいかもしれない。
専門ではないうさみにもわかるくらいの、機能美っていうんだっけ、突き詰めた結果の美しさみたいなものが感じられる。
本体部分は。
だから、後付けらしい、発生した魔力を攻撃魔法に変換する部分が蛇足に見えた。
おそらく開発者としてもこの部分急造なんじゃないだろうか。
とはいえ、技術そのものは他と遜色ないものだ。
きっと、今ある技術の生かし方、工夫という点では、元祖さんはうさみよりもずっと優秀なのだろう。
では、うさみに出る幕がないかというとそうではない。
数百年の歴史の差があるのだ。
現行の技術が陳腐化するような新技術だって知っている。
しかし、仮に優れていようとも、現行の技術が使えなくなるのは問題だ。
なぜなら、そこまで革新的だと今までのノウハウが通用しなくなるからだ。
今回の依頼が目の前の装置の改良であるというのもある。
目の前の解呪砲を使わずに一から設計するとなると時間がかかりすぎる。
さらには、ノウハウがないということは元祖さんが一から勉強しなおさなければならなくなるということだ。
次の戦争は今日明日というわけではないが、どんなに長く見ても一年はないという。
将来はともかく、現状はすぐにでも応用できるなにかを示すことが求められているのだ。
でも、そんな都合のいい話は――うーん、まあそうだなあ。
「元祖メリーさんが優秀な錬金術士だってことはよくわかったけど、その分これを改良するのは簡単じゃないよね」
「褒めてもらってありがたいですがそれじゃ困りますね!」
「だよね。だから役に立つかわからないけど、もしかしたら役に立つかもしれない話をするからうまく何か閃いてよ」
「無茶言いますね!」
多分、うさみが脳みそこねくり回すより元祖さんが考えるほうが速く現状に即したものが生まれると、うさみは考える。
うさみは根が凡人なのでいろんなことを学んでいても応用面ではそれぞれ時代の天才に劣るのだ。
なので適当に役に立ちそうなことを見繕って話して目の前の有能な専門家が何か思いつくことに期待することにした。
まあ向こうもそういう狙いだっただろうし。
というわけでうさみは話始めた。
世界の大部分を支配した古代魔法王国の衰退で、魔法関係の技術も大きく後退したことは多少過去の遺産を触ったことのあるものなら皆気付いていることだ。
そして錬金術が生まれたのは、古代王国滅亡後のことである。
錬金術と魔法は元をたどれば同じものだ。
さかのぼった先は世界創造、神話である。
神様がこの世界を作ったときに使ったのも魔法といっていい。
そして創造の過程で世界の法則が定められた。
例えば火が水をかけて消えるのは水の神様が火の神様のお姉さんだからだ。
やんちゃする火の神様を水の神様がメッすることで火の神様がおとなしくなった、ということから火に水をかけると消えるという法則が生まれたのだ。
そして最後に、創造の神様が世界の法則を確定させたことで、世界が安定しているのである。
しかしながら、神様は法則がなくても活動できるので、法則の外でいろいろなことをおこした。
それが魔法である。
世界創造と同質の力なので世界の法則を超えたことが出来る。
できるが、本当の意味で好き勝手するのは想像の神様の力を越えなければ不可能だ。
だが、ちょっとだけ法則をゆがめるとか、ごまかすとかくらいならあまり力を必要としない。
魔法は万能である、と魔法使いのギルドでは教えているがこれは事実であって実際的ではない。
神様の力を超えれば万能だけれど、魔法使いは人類なので万能ではないのだ。
「これ神殿に怒られませんか!」
「ばれなきゃ大丈夫だよ」