戦争初心者うさみ 48
「つまり、その辺の素材で伝説の武器の魔力を解放するのに耐えるように改造する方法が欲しいの?」
「そうです!」
「そんな技術があったらとっくに広まってるとは?」
「知られていない技術って、たくさんあるんですよ! 独占されてたり、秘匿されてたり、交流がなかったり、事情はいろいろですけど!」
技術の秘匿は当然のことである。
それが飯のタネだからだ。
社会で必要とされる技術を独占している限り、食うに困ることはないし、子孫に技術を継承すれば家系も守ることが出来る。
個人を集団、組織に拡大しても同じことで、規模が大きくなればギルドや国につながっていくわけだ。
同業者組合などで技術を共有していても、血の掟で漏洩を抑止するのが普通。
血の掟というのはつまり破ったら死ぬというわかりやすい話。
魔物の脅威が身近にあるこの世界は地球以上に暴力が身近なので、技術は暴力を後ろ盾にしないと保護も独占もできないということだ。
話がそれたが、うさみもそういった社会の事情は、まあ理解している。なんども生きてればいやでも理解する。知財権とかよほどのことなのだ。
ではなんでそんな話を振っているかというと。
どこまでやるか、やれるかという点で迷っているからだった。
うさみは千年周回しているので、知識も技術も数百年分先まで持っている。
そのすべてを使えば、まあ要求を満たすことはできると思う。多分。
いや、正確に言えば使えるならば、だ。
地球の高度な科学技術を実行しようとしたとして、相応の設備や道具が必要になるように、魔法技術や錬金術だって前提となるものがある。
極端に言えば、身一つで無人島に漂流したところから携帯電話を作れるか、みたいな話だ。
もちろん、魔法は究極的には万能なので力押しは可能だが、それはもっと危険なものを呼び込むことになりかねないので基本的に禁じ手だ。
さらに、うさみ以外の者が再現可能なものである必要もある。
うさみはこんなところで兵器を作り続けるつもりはない。
というのと。
元祖さんが錬金術士であり、求められたのが技術ではなく意見であるからだ。
技術者として名声も実績もあるであろう元祖メリーが頭を下げてきたということ。
技術を秘匿が当たり前な世の中で非常識な話だともいえる。
だが逆にそれをおしての行動には、軽々に断れない重みがあった。
こういうのずるい。
かつての友人の技術を継承発展させてきた末裔である。
元祖さんの言い分が正しいならば、新たな知見をどん欲に取り込み進歩させてきたのだろう。
それなら、うさみがするべきは力技ではなく、彼女の知識や技術を応用発展させるための何かを見せることじゃないか。
とか思ったりなんかして。
あとエルプリの故郷を焼いた連中の一味だから全力で協力するのも気が引ける、というところもある。
なかなか複雑な心境なのだ。
そんなわけで普段使わない記憶の奥にあるようなものまで思い出しながら、なにか使えないかなあと考えながら時間を稼いでいるのだ。
繰り返しの中で、モノづくりを趣味にすることもよくあるのでなにがしか使えるものはあるとは思うのだけれど。
「それに、隠すつもりなら、森の結界をあのように設置などしないですよね!」
「あーまあ、ねえ。……とりあえず、中見せてもらえる?」
ついにうさみは頷いた。
別にもったいぶっているわけではないのだ。本当に。
「はい、もちろんです!」
それで結果的に焦らされても元祖さんは諸手を上げて喜んだ。