戦争初心者うさみ 46
秘密兵器を見てほしい。
という元祖さんの要請に、流されるままに連れてこられたうさみの前には、ギリギリ馬車に乗るかなという大きさの何かがあった。
無骨な金属の箱の上にパラボラアンテナを置いたような外観だ。
外装のため中は見えないが、魔力視できる者なら内部に大きな魔力を保有する何かがあることはわかるだろう。
「これを改良に手を貸してほしいのですよ!」
秘密兵器は、貴族屋敷の並ぶ一角の、一見普通の屋敷に見える場所にあった。
内部はまるで壁が取り払われたように広く、様々な道具が無造作に置かれている。
そして魔法使いか錬金術士かと思われる人族が、みんな死んだ魚のような目で作業していた。
そんな中で元祖さんが上げた声に対し、視線を送ってくるものもいたが、すぐに自身の作業にもどっている。
ブラック企業かな。
「これって言われても。なにこれ」
「エルフの森を焼いた戦術魔導兵器です!」
「うへえ」
うさみは元気よく答えを返す元祖さんにちょっと引いた。
一応とはいえ、うさみもエルフである。
その前で上手に焼けました、みたいなドヤ顔されても。
うすうす思ってたけど、あんまりまわりに配慮できない子なのだろうか。
まあ元祖さんの個性はともかく。
「でも、箱の中にあるのは燃やすような魔導具じゃないよね?」
箱の中から感じ取れる魔力はむしろ逆、攻撃を緩和し身を護るためのものに思える。
鎧や盾に使われるような。
しかもそこそこ強力なもの。
「さすがです先生! つまりですね、これは既存の魔導具、それも強力だけれど使えないようなものから魔力を抽出し、攻撃魔法に変換するための装置なのですよ!」
中にあるのは魔法の鎧らしい。どこかの貴族の伝家の鎧を提供してもらったのだと、元祖さんは語る。
「もともとは呪いのアイテムの活用法の研究の延長なのですが!」
魔力を抜き取ってしまえば呪いの効果も失われるだろうが、呪いは性質上、基本的に並の魔導具よりも魔力的な構成が強固である。
これを無力化するには長い年月、代をまたぐ研究が必要だったという。
しかし、ついに魔力を抽出することに成功したのである。
こうして呪いのアイテムの解呪手段が一つこの世界に増えたのだ。
めでたしめでたし。
「で、その副産物として、抽出した魔力の利用法を探していたのですが!」
「一度に多量の魔力が発生するのを消費しなければならないから、使いみちが限られるとか?」
「そうです! そこで単純な攻撃魔法に変換して浪費するようにしたところ、結構な火力になったのです! 複雑なものにしようとすると魔力圧にですね――」
専門的な話になるが活性化状態の魔力を野放しにすると、不思議なことが起こりやすくなる。
これは基本的に良くないことだ。
例えば、魔法が暴走したり失敗したり、魔導具が変な挙動をしたり爆発したり、病気になったり、空間が歪んだりする。
呪いというのは、服にこびりついた血液、しかも濃縮版みたいなもので、濃縮還元して安全なものにしようとすると、結果として活性化魔力が大量に発生する。
何が起こるかわからないのでうまいこと消費して非活性状態にしなければ危険なのである。
さて、その上で、現在内部にあるのは良質だが普通の魔導具だ。
呪いすら還元できるなら通常の魔導具も同様に。
そして伝説の装備もまたできる、あるいはできるようにしようとしているのだろう。
エルフの森から岩ごと奪取した勇者の武器。
使用者を選ぶ強力な武器。
利用しにくい魔力の塊という点で、他者にとってはは呪いのアイテムと同様である、という見方もある。
しかし。
「ロックかかってるスマホ分解して豆電球つけるみたいな」
「スマホ!?」
この仕組みだと、魔法の鎧だろうが、勇者の武器だろうが、魔力を抽出してしまえば効果を失ってしまうだろう。
現代の魔法学、錬金術で再現できない技術で作られたものを使い潰して一回限りの攻撃に使うというのは、うさみとしてはもったいない精神がどうかなあと囁いてくる。
そういうアイテムは危険な何か対策に残されているものだ、というのもある。
とはいえ、彼らのすることに余計な口出しするのもおかしな話……あ。
そういえば口出しを求められてここに来たんだっけ。