戦争初心者うさみ 41
「ただいま」
「おかえり? 早かったね?」
「ん、また出るけどね」
人さらわれた日の深夜。
うさみは拠点に帰ってきた。
「誰を背負ってるの」
「誘拐されてた子」
「えぇぇー」
眠る女の子を背負って。
なんかこんなのばかりだな、と思いつつ。
単純な話である。
うさみが人さらわれて連れていかれた場所に先客がいたので、夜を待って連れ出したのだ。
さらわれて心細そい目に遭っていた女の子である。
お仕事のことを考えれば放置してがベストだったろうけども。
かわいそうだし。
まあそれだけではなく、自分以外の不確定要素は少ない方がいいとか、いくつか言い訳も考えてある。
七割さんが眉を八の字にしてうさみを見ている。
言いたいことはわからなくもないが、まあうまくやるから頼むよと説得するつもりであった。
「この件片付いたら帰せるでしょ?」
「どうするの?」
「夜中に舌噛んで死んでたことにするとか。ばれるようなら、やらなくてもわたしの潜入もばれるからおなじかな」
「子守の手は余ってないんだけど」
「王様の大事な財産なんじゃ?」
被害者をすぐに解放すると、さらった側が気が付くかもしれないから、解決するまで解放できないよね、というところから話を始める。
もともと、七割さんからの指示は事件の解決であって、被害者の保護は優先度が一段落ちる。
さらなる被害者が発生するより、今の被害者までで止めるほうが最終的には被害者が少なくなる可能性が高い。
潜入捜査中に被害者が一人減ってしまえば潜入がばれて捜査がおじゃんになるかもしれないことを考えれば連れ出したのは悪手である。
それらを踏まえたうえで、うさみは希望を通すために、上手くやるプランの提示と、前提となる建前を引っ張り出した。
七割さんは渋い顔をしてしばらく考え込んでいたが、一つ息を吐いてからニヤリと笑った。
「まあ、いいわ。しばらく匿うとしましょう」
「ありがと。それとね」
背負っていた女の子を引き渡しながらうさみは報告をする。
女の子は眠っていたところに眠りの魔法をかけているので朝までぐっすりだろう。
「犯人、他の国の工作員だったみたいだよ」
「へえ」
うさみと女の子の監禁場所での会話を盗み聞きした結果である。連れ出しても大丈夫か探るために調べたのだ。
正確には会話内容からの推測だが、人さらいグループは少なくとも三人以上おり、その中の上司的立場の者が他国人だろうことが類推できた。
他のものが現地協力者か潜入工作員か何かで、上司が報告を聞きに来た連絡員を兼ねているようなていだった。
うさみはスパイ映画を思い出した。
見てる側だとワクワクドキドキしたものだが、演者側に回ると面白いことはないなと思ったものだ。
さておき。
「あんまり驚いてないね」
「黙秘するわ」
「やっぱり知ってたんだね」
「捕まるかもしれない役割の子に必要以上の情報や指示は与えないものよ」
なるほど。
人さらいグループが他国の手のものだということは七割さんは知っていたのだろう。
七割当たるという勘かもしれないけれど。
であれば、関係を証明しようとしている件の貴族もスパイか、その協力者ということになるだろうか。
とすると、別件でつついてスパイ疑惑の証拠をつかむのが本来の目的?
こういうのもなんだが、人さらい程度の事件を王様が解決するよう指示を出すというのも違和感があったが、そういう裏事情があるならわかる。
スパイを抱えて戦争とかしたくないだろうし。
偉い人の政治的都合でツッコめないので搦め手(力技)で押しとおろうとするという点は変わらないが、事情が見えてくると印象が変わってくる。
なんなら人さらいとかいう大きな隙があるのも怪しく思えてくるが……。
そこまで考えると頭が痛くなってきそうなのでやめた。
「知っているかもしれないけれど、嘘発見の魔法があるから、知らない方が都合がいい場合があるの」
「わかったよ、わたしの仕事は人さらいの調査ね」
「そういう指示で。指示以上の成果が出ればは評価するけれどね」
め ん ど く さ い 。
うさみはもっとスカッとする奴がよかった。
畑耕すとか。
こういう、なんていうの、腹芸? とか苦手。
もっと楽しい仕事がいいな、と思いながら、監禁されている場所へと戻るのだった。