使い魔?うさみのご主人様 18
「じゃあ今日は白い石以外踏んだら死にます」
魔術学院の石畳は、石の色を使って模様が描かれている。
「なおわたしは黒い奴だけ踏みます」
そのことを利用して追いかけっこの難度を上げ。
「さらに今日はわたしが追いかけるからね。背中に触ったら負けで罰ゲーム」
「罰げいむ?」
「苦いお薬を飲んでもらいます」
さらなる危機感を煽り。
「でももちろん全力で追いかける気はないから心配しなくていいよ」
運動が得意分野らしいメルエールの自尊心も煽った。
こうしてメルエールは今日も汗だくで解毒剤(嘘)こと苦い(という表現ではあまりにも不足しているが)お薬、魔力を気持ち回復させるやつを飲んでから、朝ごはん食べて学院へ行った。
そしてうさみは別行動である。
緑に染まったお布団と夜着、それから汗まみれの運動着を洗うのである。
服というのはなかなかに高いものである。
上級貴族や王族であれば同じ服に二度袖を通さないなんてこともあるだろうが、貧乏男爵令嬢ではそう多くは所有できない。
なので汚れたら洗って再利用するのである。
「おせんたく~おせんたく~」
中身を抜いて表だけになったお布団と服を漬けたたらいを頭にのせて、楽しそうに歌いながら洗い場へ歩く。
寮の裏手から近くの川まで移動しなければならない。
常識的に、水が入っているたらいをもっていく者は普通いないが、うさみは平気な顔で、いやニコニコと楽しそうに歩いて行った。
「おはよーございまーす!」
洗い場ではすでに数人の人間が作業をしていた。
学院や寮の職員か、生徒の使用人である。
みなさん薄着のお姉さま方だ。
濡れるので初めから薄着なのである。
そのお姉さま方は、うさみが声をかけると返事をしようとして固まった。
そして、うさみが身に着けている使い魔の印……黄色と黒の縞々の布を確認してから、おっかなびっくり返事を返してくる。
魔術王国サモンサではエルフは敵性亜人と認定されている。
建国の過程で、そしてその歴史の中で、対立し、戦争し、殺し合ってきたからだ。
エルフ以外の亜人も同様である。
人族主義国家なのだ。
そんなわけだから、エルフのうさみは警戒されるのである。
うさみはそういった背景を気にする様子もなく、鼻歌を歌いながら洗い場の端に荷物を下ろして、髪をまとめ、服の裾を上げて縛ってから、作業を始めた。
彼女たちは様子をうかがっていたが、とりあえずうさみが襲い掛かってこないと考えたか、自分たちの作業を再開する。
ちらちらと視線を向けながら、ひそひそと話をしていた。
うさみが来るまでは和気あいあいとした雰囲気であったが、一気にドン暗い場に変わったわけだが、元凶であるうさみは能天気に楽しそうにしている。
先にいた者たちは遠巻きにして窮屈そうに作業をしていた。
ぶっちゃけうさみは邪魔者なのだが、だからといって下手に手を出すわけにはいかない。
なぜなら使い魔だからである。
使い魔は主の一部として扱われるし、感覚共有や意思疎通で主と連絡がつく。
うっかり偉い貴族様の使い魔だったりすると首が飛ぶのだ。
洗濯を仕事としてしている身分の者が手を出すべき相手ではないのである。
そういうわけで、あわあわしてふみふみしてじゃぶじゃぶしてぎゅっぎゅして洗い場から物干し場にうつり、ぱぁんしてとめて、すやすやしてと、まわりから遠巻きにされたりあとから来たものに驚かれたりしながらも無事に半日かけて作業を終えた。
緑色の汚れは無事に落ちた。
そして問題はこの後に起きた。
「ここにいたのか貧弱な使い魔よ」