戦争初心者うさみ 38
「そういうわけで、森で仕事してきたよ。いきなり引き離すんだからひどいよね」
「森か。うらやましいのじゃ。わらわと精霊様も森へ行きたいのじゃ」
王都マーゼに戻ってきたうさみは、報告と割りばしの片割れの棒(大量)を黒犬さんに任せてエルプリと面会した。
どうせうさみのいないところでうさみの勤務態度についての話をするのだろうから先にやっといてよ、というのと。
人質の安否確認である。
「そっちはどうだった?」
「人族の作法の勉強と、みんなの説得なのじゃ」
エルプリはそこでためいきをついた。
エルプリはうさみに対する人質だが、本人にも利用価値を認められている。
エルフの取り込みだ。
森で活動できるエルフがいれば、今回うさみがやったような準備とかなしでも森経由の奇襲なんて容易だろう。
魔法に長けているものも多いのでそちら方面でも期待できる。
しかし、故郷を滅ぼされているという致命的なマイナスがあるので、エルプリの仕事は多難である。
「裏切り者と言われたのじゃ」
聞けば、捕まっているエルフからそういう言葉が出たのだそうだ。
「誰よそれ。ひっぱたいてこようか」
「ダメなのじゃ。これはわらわの役割なのじゃ」
うさみから見て、エルプリはかなり頑張っている。
救援要請に出されたときから、ずっと。
まあ結果はついてきてないけれど。
頑張ってる子どもに対して、裏切り者はないだろう。
結果がついてきてないのには、わりとうさみが関わっているので、ちょっときまりが悪いのだが、それはそれ。
まあ自分の家を焼いて滅ぼした奴らに協力しようと言われたらそんなこと言いたくなるかもしれないけども。
そういうことを言わせているのは自分たちが捕まっているせいだというのに。
誰が悪いかといえば元をたどれば紅の森を焼いたカ・マーゼの国なのだが、それを糾弾したところでどうにもならない。
生殺与奪を握られている時点でどうこう言える立場ではないのだ。
子どもいじめて八つ当たりする余裕がよくあるなと逆に感心する。
まあうさみがそう思うのは、エルプリには感情移入しているが、他のエルフには気の毒だなあくらいしか感じていないせいだろうけども。
実際に当事者になったらどう行動するか想像できない。
うっかり八つ当たりし始めたら魔王扱いされるかもしれないし、そういう機会はもちたくないものだ。
「頑張ったね。逃げたくなったらいつでも言ってね」
「まだまだじゃ」
「そっか」
うさみにとっては第三者だが、エルプリにとっては家族である。
だからこそ傍で見てイラっと来るが、本人たちしかわからないこともあるだろうし、見捨てるのも難しいだろうこともわかる。
ああもうほんと、ひとに関わるとろくなことがないなあ。
もう何度思ったかわからないことを、うさみはまた思った。