戦争初心者うさみ 37
ぱき。ぐさ。ぱき。ぐさ。
うさみは割りばしを割っては地面に突き刺しながら歩いていた。
荷物を持ってスクワットしながら歩いている気分である。
明日は筋肉痛かもしれない。
うさみが作った大きな割りばし、のような何かは、二つに割ると片方に葉っぱが残るようになっている。
葉っぱが残った方を地面に刺すのである。
残った方はまとめ直して棒に引っ掛けてぶら下げてある。
「そろそろ何をどうしようとしているのか教えてもらえるでありますか」
割りばしのほとんどがただの棒になったころ。
同時に、おおむね目標の、奇襲のため森を脱出する想定地点が近づいてきたころ。
黒犬さんがうさみに尋ねた。
「もうちょっとで終わるよ。森を出る前に休めるところがあった方がいいよね?」
「まあ、そうでありますな」
うさみは最後の一束をまとめて地面に刺そうとして、割ってないことを思い出して一度分解して全部割ってから改めて地面に刺した。
そして森の奥から戻る途中に見かけたので拾っておいたヘビの抜け殻を巻き付けるように設置する。
「準備できた」
「なんのでありますか?」
「魔法にきまってるじゃん」
うさみはよいしょと天秤棒を最後の束と自分の間に置いた。
「えっと、こうか。それでこうで、さんにーいち」
ぱちんと手をたたく。
「…………? なにも起きない……いやこれはヘビ? なんだか嫌な感じであります。ここを離れたいであります」
「その前にこれ持ってみて」
ちょっと顔色が悪くなった黒犬さんに、地面に置いた天秤棒に掛けてある束から棒を一本抜いて渡す。
「なんでありますか……! これは!?」
「うまくいった?」
慌てたようにあたりを見回し始める黒犬さんにうさみが声をかける。
「あたりが整地された広場になっているであります……向こうは遊歩道か何かでありますか?」
「棒を捨ててみて」
「ひっ、ヘビの森になったであります」
「成功だー」
実際にどう見えているかはうさみにはちょっとわからないが、上手く行ったことはわかる。
うさみが何をしたのかというと、地面に刺してきた割りばしの片割れを媒介に迷いの森をつくる要領でなんかヘビがいるような気がする森を作ったのである。
それも毒ヘビ。
毒ヘビが居たらなんか近寄りたくないという心理効果を利用した人よけ獣よけの効果がある。
毒ヘビを好んで食べる生き物がいれば逆に寄ってくるかもしれないが、多分このへんにはいないんじゃないかな。
それだけではない。
割りばしの片割れの棒を身につけることで、本人にとってすごしやすい環境に感じられるようになる。
だいたい、さわやかな風が吹く春の散歩日和に林の中の遊歩道を歩くような気分を想定してある。
ただ一つ問題がある。
エルフであるうさみは森の中も不快感を感じず、むしろすごしやすく感じるため、自分で効果を確認できないのである。
とはいえ、黒犬さんの反応の見る限りうまくいったらしい。
「快適な環境なら兵士の人も安心して移動できると思うんだけどどうかな」
「これ、向こうからずっとでありますか?」
「棒を刺してきた道のりは全部同じようになってるはず。冬が来るくらいまで持つかなあ」
「これを、魔法でやったでありますか?」
「ちゃんと勉強してる錬金術師か魔法の得意なエルフなら、練習すればできるよ、二百年くらい類型の魔法の練習した経験があればノリでいけると思う」
「“金花”何歳でありますか?」
棒を置いたり持ったりしながら、黒犬さんが尋ねてくるが最後の質問はスルー。
おばあちゃんだよーと言ってもみんな信じてくれないのでノーコメントするのだ。
「まあ、これでよかったら帰ろう。この棒は上に渡してね」
帰った。