戦争初心者うさみ 36
樹木から切り離された枝を変形させる魔法はそれほど難しくなく、大枝は大量の割りばし、のような形状だが割りばしにしては少し太い棒に成形された。一組に一枚葉っぱがついている。
「それは何でありますか?」
「迷いの森っぽいものを作るのに使うんだよ」
「迷いの森、ぽいもの? でありますか?」
「そうそう。見てもらったほうが早いと思うから、とりあえずこれを運ぶの手伝……持てないかなこれ。束ねようか」
うさみが人差し指を立てた手をくるくると回すと、一部が変形して巻き付き、百組程度ごとに束ねられていく割りばしのようなもの。
くねくね動いてヘビのようだ。
そしてヘビのように動いて他を束ねた棒の先っぽが、フックのような形状になって動きを止めた。
「これでこう」
さらにうさみの身長の倍ほどの長さの長棒を形成し、黒犬さんに差し出す。
「これ持って」
「わかったであります」
「あ、棒はこっち向けて」
「であります」
「高いからちょっとしゃがんで」
「あります?」
「そうそう、で棒をもうちょっと上向けて……行きすぎ行きすぎ。そうそうわたしの手が届く高さにね」
「ます」
剣道の蹲踞のような姿勢を黒犬さんに取らせるうさみ。
そしてうさみも棒の反対に手をかけ、割りばしの束のフックを引っかけた。
するすると棒に沿って黒犬さんの方に滑っていく割りばしの束。
うさみはこれを繰り返した。
積み重なっていく割りばしの束。
黒犬さんは重そうだ。テコの原理で何倍にも感じるかもしれない。
割りばしの束を全部引っかけ終わったころには黒犬さんの腕がプルプルしていた。
「力持ちだね」
「お、重いであります」
「こっち下ろしていいよ」
うさみが手をかけていた側を引き下ろして重さを半分受け持つと、黒犬さんは一息ついた。
「これ、どうするでありますか?」
「もちろん二人で担ぐんだよ」
うさみ二人分の長さということは二メートルよりちょっと長い。
それぞれが端っこを担げばうさみの犬臨界点二メートルを維持できる計算である。
二人で持てば重さも半分だし、昔のカゴ屋さんとか、祭りの御神輿とか重いものを担いで移動していたのだからそれに倣うわけだ。
完璧な計画である。
「それじゃあえっと、森の入り口予定地から出口まで改めて歩きながら作業をするよ」
「作業でありますか?」
「この短い棒を設置していくの。まあ見ててくれたらいいよ」
そう言いながら、うさみが長棒を肩に担いで立ち上がった。
黒犬さんもうさみに倣って肩に担いだ。
がががしゃん。
長棒に掛けられたフックつき割りばしの束が全部うさみの方へと移動した。
「あ、あれ?」
「あー、“金花”ちっちゃいでありますからなあ」
棒を支持する高さに差ができたせいで、うさみ側に傾いたのである。
頭一つ以上違うので考えてみれば当然の話であった。
結局うさみがひとりで天秤棒のように真ん中をもって運ぶことになった。