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戦争初心者うさみ 35

 森の奥にはより危険な魔物が棲まう。


「クマだね」

「クマでありますな」


 森の奥にはクマがいた。


「赤熊さんよりおっきいね」

「赤熊さんは気合入れると大きくなるでありますよ」

「そうなの!?」


 新事実に驚きながら、熊を観察する。

 四つん這いなのにうさみよりも高い。

 見たところ能力は通常の動物の域を越えてはいないように見える。

 火を吐くとか、魔法的な能力をもっていないという意味だ。

 見た目以上の膂力を持っているとかならあるかもしれない。


 もともとクマは熊でありベアーであるため侮ってよい相手ではない。

 撫でられただけでうさみの首くらいもげる。

 なので即死するパワーが即死して有り余るパワーになったところでそれほど気にしなくてもよいと思う。


 そして距離を置いて会話しているために、クマもすでにうさみたちに気づいている。

 にらめっこ状態。

 森のクマさんならお逃げなさいと言ったにもかかわらず、落とし物を拾って追いかけてくるところだが、当然ながら声をかけてくる様子はない。


「魔物は避けているのではなかったでありますか」


 黒犬さんがゆっくりと構えながらうさみに尋ねる。ちょっと緊張気味なのが声からもわかる。

 武器とか取り出さないのは素手派なのか他の何かがあるのか。


 これに対して、うさみは待つように手で示しながら。


「あそこの大きい木に用があったから。ここにいてもらったら邪魔だから、ちょっと退いてもらわないと」


 クマの向こうにある木のさらに向こう。

 周囲と比較して一回り太い幹の木があった。


「作業中に寄ってきたら困るから」


 うさみはそう言いながらクマに向かって歩を進める。

 ここまでは、どちらかというと黒犬さんに注意を向けていたクマは、その動きを見てうさみに目を向けた。



 一歩一歩近づくうさみ。


 クマは警戒して逃げるか攻撃するかすこし迷っていたようだった。黒犬さんの存在も気にしていた。


 そして結果として。


 うさみに襲い掛かった。



 その巨体にしては驚くべき瞬発力を発揮し、右腕を振りかぶり飛びかかるようにうさみへと向かい。


「ああっ! “金花”ッ!」


 そしてうさみの脇に腕を振り下ろし正面やや左をぎろりとにらみつけたかと思うと四つ足で駆け出しそのまま走り去った。



「え?」

「よしよし」


 クマを見送るうさみと、クマが去った方向とうさみを交互に見る黒犬さん。


「今のうちに用事を済ませるよ」

「え、あ、どうなったでありますか?」


 目的の木へと歩き始めたうさみに黒犬さんが問いかける。


「邪魔だから他所に行ってもらっただけだよ。あのクマは私が攻撃を避けて逃げたから追いかけていった、という風に感じてるはず。帰ってくる前にやることやって戻るよ」

「幻術の魔法でありますか?」

「そんなかんじのやつ」

「全くわからなかったであります……なんで倒さなかったでありますか?」

「強そうなクマがいなくなったら縄張りが変わって森が荒れると兵士の人が通るのに支障がでるかもしれないからだよ」

「え、え、え」


 話しているうちに大きな木の根元に到着。

 うさみは幹に手を当てる。

 魔法を使う。

 初めて使う魔法はちょっと集中したいところ。なのでクマにも退場願ったのだから。


「えっと、こうだったかな」


 参考にするのは森の精霊様。

 エルフの村で木を動かしていた。

 家に変形させたり檻を形づくるくらいだから融通は効くだろう。

 迷いの森をつくるのも精霊様の力だったか。

 今回も精霊様を連れて来れば手っ取り早かったかもしれないが、紅の森の精霊様はエルプリに付いている。

 まあ、精霊にできるのだから。


「枝をくださいな」


 うさみにもできる。


「うわぁぶないであります!」


 ドスン、と葉っぱもついた太い枝がうさみの背後に落ちてきた。

 うさみの腕どころか足より太そうなごつい枝である。

 黒犬さんが巻き込まれかけたが跳び退いて事なきを得る。ごめん。


「ありがとう」


 回復力向上の魔法と、大地の恵みの魔法をかけてお礼を言って。


「ちょっと大きいなこれ。分解しないと」


 魔法は完全に狙った通りとはいかなかった。はじめてだったし。

 担いで森の中を歩くにはどう見ても邪魔なサイズで想定より一手間増えたことに、うさみは一つ息をついたのだった。

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