戦争初心者うさみ 34
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「つまり兵士の人が快適に移動できて、なおかつ敵に見つからないような道を確保にすればいいのかな」
「でありますな」
森の中で、である。
無茶な話であるとさっきも認識したが、うさみはひとつ思いついた考えがあった。
「ただもう一つなにか……」
ぐるりと視線を巡らせるうさみ。
腕を組んであごに手を当てて唸る。うーん。
よし、思いつかない。
「まあいいか、とりあえずわかってる材料をもらいに行こう。黒犬さん、行くよ」
「どうするでありますか?」
「エルフの真似をしようかなって」
「エルフじゃん」
口調が崩れてるであります。
うさみはいままで進んできた、森の外縁部かつ、外から見えない程度のルートから、森の奥へと進路を変えて、ずんずん進んでいた。
後ろを律義に二メートルくらいあけてついてくる黒犬さん。
樹上ではなく、地上を歩くと、犬に追いかけられている気分になる。つらい。
それでも、我慢して進んでいると、それを見つけた。
「あ、ヘビだ」
「あ、待ってくれであります」
ヘビを見つけたうさみが加速。
五秒ほど走って、うさみの肘から先程の長さのヘビの首元をつかんで捕まえた。
うさみの親指ほどの太さの小さなヘビだ。赤みがかった茶色の鱗。つぶらなひとみ。
うさみは爬虫類結構大丈夫系であった。
おじいちゃんちの近所にはよくヘビが出たし、土間の引き戸の中にはマムシの焼酎漬けが並んでいた。
マムシを捕まえてくるとお小遣いをくれたので探したこともある。
親には怒られたけど。
懐かしいなあと思い出しながらヘビを観察する。ぐねぐね。
「い、いきなり走り出すのはやめるであります。見失うところだったであります」
「匂いで追いかけられるでしょ」
しばらくして追いついた黒犬さんが苦情を言うが、うさみはヘビに夢中であった。
ぐねぐね。
「ヘビでありますか?」
「そうそう、毒ヘビ。噛まれて放置したら大体死ぬやつ」
「ヒェ」
うさみがヘビをむけると、黒犬さんは大げさにのけぞった。距離があるのに。結構ノリがいい子かもしれない。
「ちょっと確認なんだけど、毒ヘビが多いところって近づきたくないよね、普通の人」
「それはまあそうでありましょうな」
「あ、こらくすぐったいから巻き付かないで」
ぐねぐねしていた蛇が腕に巻き付いてきたので引きはがして投げ捨てる。
十分観察はできた。
「ばいばい」
「なんだったのでありますか」
「ヘビがそこにいたから」
ヘビがいたらしかたがない。
「いや、いたからなんでありますか……ん、そういえば」
「なに?」
わかってくれなかった黒犬さんが思わせぶりに言葉を切る。
いや、言いよどんでいるだけだろうか。眉間にしわを寄せている。
「ここまで魔物と全く会わなかったであります。外縁部ならともかくこれだけ踏み込んで会わないとなると。なにかの前触れでありましょうか」
「それはいないとこ抜けてるからだよ。結構いっぱいいるよ」
「え」
魔物にも縄張りとか生態系とか多分あるので、うまく警戒の隙間を縫っていけば魔物と合わずに移動できる。
うさみはそういうのわりと得意である。危険感知の応用だ。
襲われても走って逃げるが、襲われないのが一番楽なので、練習もした。
というような事を話すと、黒犬さんは何とも言えない顔をして。
「エルフはよくわからんであります」
とつぶやいた。