戦争初心者うさみ 33
「どうも人族は森というだけで負担になるらしいであります」
「どういうこと?」
「我々で試した結論としては、知覚能力と危険度が釣り合っていないせいではと」
「ははあ」
黒犬さんの話を聞いて、うさみはあいまいに頷いた。
ちょっと思っていたよりも厄介な任務であると思いなおしたうさみは、前提を確認しなおすことにした。
具体的には黒犬さんに話を聞いた。
森に入って一時間以上経っているし、そもそも初めにやっておけと、今は思うが、まあそうね。
甘く見ていたことはうさみも認めるところだ。
そういうわけで、森を抜ける人族の兵士について確認することにしたのだ。
「死角が多いでありますから。そして魔物がどこから現れるかわからない。普段活動している平地とは空気も違うであります。エルフは森の木々に親和性がありますし、獣人は多くの場合人族よりも感覚が鋭いでありますが」
「ふーん」
見えないところに怖いのが隠れているかもしれない、というのは確かにプレッシャーかもしれないけれど。
ゲーム時代から感覚を引き継いでいるうさみはいまいち共感できなかった。
もともとエルフなので森への適性があることと、危険に対する感知能力が鍛えられていたせいだ。
どちらかといえば臆病だと自己評価しているうさみだが、ゲーム時代は死んでも致命的なことはなかったので無茶もした。
そのせいで危険感知能力が鍛えられ、その感覚が残っているのでこの世界でも同じものを得られている。
安全マージンをとっても、少なくとも並の人と大きく感覚が違うのだ。
要するに、うさみの感覚を基準にしていたらだめだということを再認識させられたので、うさみはちょっとしょげた。しょぼん。
「ただ、人族だから、というだけでもなく、例えば熟練の狩人は森に必要以上の恐怖を感じることはないであります」
「要するに慣れてないってこと?」
「そう考えていいと思うであります」
「じゃあまず兵士の人を鍛えるほうが先じゃないのかな。そもそも奇襲とか精鋭じゃないと難しいんじゃ?」
森を抜けて奇襲と挟み撃ちだ! という作戦なのだから森を歩けるだけでは始まらない。
余裕をもって森を抜けて、そのあと戦争できなければ役に立たない。
攻撃前に休むにしても、森の中になるだろう。
森に慣れてないと無理な相談ではないだろうか。
道の確保よりそっちがさきでは。
「熟練の狩人並みには一朝一夕ではなれないでありますよ。そこはエルフを使うとかいろいろ考えがあるようであります」
「エルフはまだ早いと思うんだけどなあ」
兵士の人を育てる時間が足りないというのであれば仕方がないのかもしれない。
かといって、征服してとらえて見世物にしたエルフをすぐに使うのも尚早としか思えない。
うさみもエルフだが、自分の家を焼かれたわけでもないので事情が違う。
それでもあんまり気分がよくはないのだから、当事者であれば恨み骨髄だろう。
そんな相手に勝敗を賭けた策を託すのは無茶では。
まあそれはそれとして。
そうなると、森に不慣れな人に森を踏破させて戦争できる状況で戦場の裏に連れていく必要があるということだ。
「結構難題なんじゃないのこれ」
「今更でありますか……」
今更である。
しかしまあ。
「しょうがないなあ」
真面目に働く気が一応あると見せるためにも、やるか。
うさみは腰を上げた。