戦争初心者うさみ 29
反省。
過ぎたことは過ぎたこととして、エルプリの話を聞いた。
明白な足手まといであることを強く認識しており、自分にできることはないかとずっと考えていたそうだ。
さらに人族の建物の中という狭い場所に一人で置いて行かれ、心細かった。
実は、エルフは森で暮らすもので、閉所は苦手だったのだと。
うさみはそういう感覚はないので、種族特性というよりは生まれ育った環境によるものだと思う。
まあ、森が得意補正が無くなっている分苦手というのも間違ってはいないだろうが。
話を戻すが、つまりエルプリにどれだけのストレスを与えていたのかということである。
十歳の子どもに。
さらに言えば、この件の前に戦争吹っ掛けられて救援を呼ぶための使者として長旅から仲間と死に別れ自分も殺されかけ頼みにしていた相手には追い出されさらに最後の同志は樹木化してしまった後である。
樹木化はよくわからないけど死んだようなもんだろう。多分。
改めて考えると、ひどい経験だ。
よくエルプリは我慢している。
うさみだったら投げ出していたんじゃなかろうか。
そうやってストレス満載で一人放置された結果。
二日目、うさみが出かけてからエルプリも宿を出たのだそうだ。
一応、宿で情報収集するという役割を振ってはいた。
しかし、喧騒から意味のある情報を抜き出す、なんてのはそれなりに場所を選んでかつある程度訓練しないと難しい。
大勢の人間がいる街に始めてきたエルプリにはとてもではないが無茶なことだった。
エルプリはそのことを一日目で悟り、出来ないなら別の方法で情報を集めなければならないと考えた。
うさみとしてはエルプリを宿から動かさないための方便だったが、エルプリは他にやるべきことはもってなかったし、自身の能力不足でやるべきことを果たせないのなら、別の方法で不足を補填するべきだと考えた。
つまり外に出て足で情報を集めるのだ。
不慣れな閉所から出たい気持ちもないわけではなかった。
うさみはすれ違うと困るからと言っていたので、帰ってくるまでに宿へ戻れば問題ないと考えた。
一日目のうさみの話を聞けば、二日目もうさみの帰りは深夜になると判断できる。
であればそれまでに戻れば問題はないということである。
そして出かけたのはいいが、人族の街での情報収集など、やったことなどない。
そもそも街に来るのも初めてである。
なんなら人族って敵である。
慣れない場所で周りには無数の敵がいる状況でやったことがないことをできるだろうか。
結果は案の定だった。
どこに行くべきか、というところから躓いて、歩きながら周囲の話を聞き取ることにして歩き回り。
自らの位置を見失った。
迷子である。
人々の話に意識を向けていた結果見事に迷った。
聞き耳を立てていなければ迷わなかったのかといえばわからないが。
多分人族が森で迷うのと同じくらいの確率で迷っていたのではないだろうか。
そして日が落ちてなお徘徊しているところに声をかけられたのだそうだ。
声をかけてきた相手は、七割さんの部下。
これは偶然ではなく、七割さん側も都合があって巡回していたらしい。
そこで怪しい子どもを見つけ、変装だと見破って、道を教えてくれた通りすがりの第三者を装い拠点である宿を把握したのち拉致した。
エルプリが出歩いた結果、拉致されたわけだ。
つまりうさみが悪い。
エルプリを買いかぶると同時に見くびっていた。
同行するか、半端なことをせず宿の部屋を出ないことを最優先にするよう指示しておくべきだった。
さらには、うさみのほうも捕まっているエルフにすでに七割さんの手におちている者がいたと見抜けなかったので、エルプリが捕まっていなくても遅かれ早かれだっただろう。
つまり今回、失敗したのは大体うさみが悪いということだ。
初めから十歳の子どもが悪いとか言えないし言わないが。
うさみはこの世界に来て引きこもっている時間が長い、とか言い訳するまでもなく、人と向き合うのことは大変なことだと、改めて思い直したのだった。