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使い魔?うさみのご主人様 17

「あんたあたしの扱いぞんざいすぎない?」


 メルエールが着替え終わったころ、うさみが戻ってきたので文句を言う。

 有無を言わさず裸にされるとは思いもよらなかった。あっという間に脱がされた手際もおかしい。

 ……そういえば見た目より力もあるのね。

 メルエールはうさみが見かけ通りの子どもではないことを思い直した。


 エルフってみんなこうなのかしら。


 エルフといえば精霊魔術と弓に長け、森にすみ人をさらったり殺したりする恐ろしい亜人である。

 森という魔境で暮らす以上身体能力は高いだろうことも十分に考えられる。


 そんなことを考えていると、うさみが膨れて不本意そうに。


「人目があるところじゃちゃんとしてるでしょ」

「まあそうだけど」


 二人でいるときのは馴れ馴れしい上、だんだん雑になっている気がする。

 もしかすると使い魔のふりをすることに不満があるのか。

 いやでも、そもそもうさみが言いだしたことである。

 どちらかというと慣れてきて素が出てきたのではないか。

 だとすると……この子結構めんどくさいのではあるまいか。


「そんなことより、メルちゃん様が明かり上手になった話をしよう眩しいから隣の部屋で」


 直視できないほど眩しい光源に眩しそうにしながら、上手くなったといわれても、それある意味失敗した奴ですよとしか思えない。


 とはいえ、眩しいことに異論はないので移動する。


 使用人室の明かりはすでに消えていた。

 明かりの魔術は数時間続くのが仕様である。

 あとで使った方が先に消えているのは魔力の使い方の違いだろうか。

 メルエールの魔術の使い方が不安定な証拠でもあるが工夫の余地があるともいえる。


 うさみが言い出す前に明かりの魔術を詠唱する。


 明るすぎず、暗すぎず、揺らめかない、適当な明るさの光源が現れた。

 確かに、上手く魔術を使えるようになったように思えた。


「やっぱり上手になってるね。よかったねえ」


 うさみがニコニコと言ってくる。


「でもなんで? あたしには秘められた才能があってそれが開花したのかしら?」

「あはは、それはないよ」


 ちょっと調子に乗ってみたら、うさみにスパッと切り捨てられる。真顔で。

 あんまりはっきり言われたので、メルエールは言葉が出ずに口をパクパクさせた。 


「メルちゃん様は魔術に関して特別な才能はないから、死ぬほど頑張って練習しないと追いつけないからね? 明かりくらい、みんな普通に使えるんでしょ?」


 うさみが急に厳しくなった。

 確かに、明かりの魔術は初歩中の初歩で、初等部で習う程度の魔術である。

 できて当然だった。


「まあ才能とかなくても十年まじめにやれば大体のことは一人前にはなれるから大丈夫だよ?」

「さすがエルフは時間の感覚が長いわねえ」


 十年とか、メルエールが今まで生きていた半分以上の年数だ。

 かんたんにそんな時間が出てくるのだから気が長い話だ、とメルエールは思う。

 しかしうさみはそうではないようだ。


「エルフとか関係ないと思うんだけど……まあいいや。才能じゃなくてメルちゃん様が頑張った成果だからね、勘違いしないでよね」

「あたしが?」


 なにがよかったのか。

 あのマズい緑汁か。

 それとももっとマズい薬か。いや、薬は魔力回復のためのものだといっていた。嘘とは言わず。だから違うだろう。


 いや、わかっている。

 明かりの魔術が上達したということは、走りながら明かりの魔術を使う練習をしたことだろう。

 しかしあれは一度も成功しなかったはずだし。

 それに朝飯前の短い時間でできるようになったのは実は結構才能があるのではあるまいか。どうか。


「才能はないよ?」

「うさみあんた才能にうらみでもあるの?」


 才能というと真顔で否定するうさみをメルエールは不思議に思った。


「嫉妬することはあるけど恨みはないかな。ただメルちゃん様がなんか勘違いして努力するのやめたら、一生一人前になれないだろうから念押ししてるだけだよ」

「そ、そうですか」


 子どもに真顔でお説教されるのはなんだか心にくるものがある。

 というか言ってることもかなりきつい。メルエールは自分にはそこまで才能がないのかとすこし悲しくなった。


 そして、いつのまにかうさみの言葉を真に受けてしまっていることに気づいていなかった。


「話を進めるね。簡単に言えば、失敗してもちょっとだけ上達するんだ。だから何回も失敗してもらったんだよ」


「どういうこと?」


「文字通りだけど……別のことをしながらとか、集中を乱されたりとかしながら、魔術を使うのは難しいでしょう? メルちゃん様はまだへたっぴだから失敗するでしょ? 失敗の程度が大きいと魔力ほとんど使わないから、魔力が少なくても何回も練習できるでしょう? 何回も練習すれば、塵も積もれば山となるでしょう?」


 失敗を積み上げて上達させたのだと、言いたいということはわかった。

 魔力には限りがあるため、たくさん練習できない、だから上達しない、という問題を裏技的に解決する手法といえるだろうか。

 しかしちょいちょい言葉尻がきつい。


「これで上達できるのはごくごく初心者のうちだけだけれどね。普通にできるようになったら誤差だし、上手くなってきたら失敗したときに使う魔力も増えてくるし、失敗しすぎて変な癖がつくこともあるし。ただ、今のメルちゃん様には効果があったね」


 メルエールは今自分がすごく下手なのだということを認識せざるを得なかった。

 だってうさみの言い方が。つらい。事実だけどさ。


 とはいえ、それで明かりの魔術が上達したのは事実である。

 実績が出た以上、この方法は正解なのだろう。


 うさみがメルエールのために考えてやっているということはわかる。

 さらにいうなら、あの薬と緑の汁。

 うさみは、メルエールが起きているときに離れて行動していない。

 ということは寝てる間にしか用意できない。

 それだけの労力を使ってくれているのだ。この子エルフが。


 だからそれだけの奉仕に答えるためにも、才能がないとか下手くそだとか言われても我慢して……いやそうじゃない。

 我慢? いやむしろ腹が立ってきたよね。事実でも。

 見返してやろう。そういうつもりでいこう。その方があってる。

 メルエールはひそかに決意した。


「ただね、失敗してもいいやって思ってやってると、少しも上達しなくなるから、失敗したら死ぬつもりでやってね。わたし、一週間後にメルちゃん様が死んじゃってても、残念だったね、じゃあかえーろっ、くらいのつもりでやるからね」

「……え?」


 ちょっとひるんだが、メルエールはひそかに決意した。生き延びようと。……というか死ぬ死ぬって嘘だよね。ほら早く嘘だけどって言いなさい?

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