戦争初心者うさみ 28
「うぅ……すまぬのじゃ、うさみ」
「あー」
エルプリと面会する権利の保証を要求し、お仕事中でなければ、常識の範囲内で、ということで認めさせた。
この内容ではスケジュールを決める人間の調整次第で全く会えなくなるし、そもそも向こうが約束を守ると信用できるかというとそんなことないので実質的に意味がないように見える保証である。
しかし、人質とかとる相手に降った以上、そのくらいは仕方のないところだ。
もともとお互い信用はないのだから、ゼロから始めるしかない。
お互い誠意を見せていかなければ信頼関係は結べないし、結ぼうという姿勢を見せないのならそれこそこちらもやりようがある。
そんなわけで即座に権利を使用したところ、認められたのである。
織り込み済みだったのだろうが、便宜は図るとの言葉を、はじめから違えないでもらえて何よりだ。
まあそれはそれとして。
「わたしの失敗だよ。謝るのはわたしの方。ごめん。甘く見すぎてた。それより、今からでもエルプリだけなら連れて逃げられるけど、どうする?」
見張りとして立ち会っていた七割さんが目を細め、その部下の獣人族が身構えた。
「……」
エルプリは見張りの二人をチラリと見たあと、うさみに向き直る。
うさみはできるだけなんでもない事のように、微笑んで片目をつむって見せた。
「……わらわたちだけ逃げ出して、その後皆を助けられるじゃろうか?」
「残念だけど、何人かは見せしめにされると思う。そうだよね?」
「そうね、少数なら信頼を築く方が効率がいいのだけど、百人以上いるからね。
森のエルフは仲間意識が強いから、こちらが本気だとわかってもらった方がいうことを聞いてもらいやすい。
ただ、殺さない分、あなたたちが働いてくれるなら、見せしめにしなくてもいい」
七割さんは貢献すれば殺さないであげるよと言っている。
ひどく不公平な取引だが、エルプリは受け入れざるを得ないだろう。
「すまぬのじゃ、うさみ。わらわはもうよいのじゃ。うさみだけでも逃げてくれぬか」
「それをすると、わたし、今後の人生で思い出すたび泣きたくなるだろうからやめておくよ。長く生きるのも善し悪しだよ、ホント」
エルプリが苦しそうに言うので、うさみはあえて軽い態度で返した。
肩をすくめてふうやれやれだぜみたいな。
視界の隅でなんかめっちゃ獣人族の人が睨んでくるけど気にしない。
七割の人は苦笑しているので大丈夫だろう。
「まあこうなった以上は内部から乗っ取るくらいのつもりでいたらいいかもね」
「乗っ取るのじゃ?」
「そうそう、国ごととか」
エルプリを元気づけようと、思いついた前向きっぽいことを言ってみる。
言ってみてから、あれこれって結構よくない? と、うさみは自分で思った。
故郷を奪われた仕返しに国を奪うとか物語みたいな話だが、しょんぼりして暮らすよりはいいだろう。
獣人の人の目つきがさらにひどくなったが。
「そなた本気なのじゃ?」
エルプリが、獣人の人をチラチラ見ながら言う。
「言ってみただけだけどね。でも紅の森にかえるにしても、この国の偉い人に認めさせないとまた攻められるでしょ。残ることにするなら発言力高めていくしかないんじゃないかな。今の王様は人族だから、百年しないでいなくなるんだし」
「おお、そうじゃな、人族はすぐ死ぬのじゃよな。獣人族も……エルフもおるようじゃが」
獣人族の人がプルプル震えている。怒ってる、のだと思うが。
獣人族は、外見の獣度が高いと感情がよくわからないから困る。
ガングロエルフの七割の人は手を口に当てて視線をそらしていた。これ笑いこらえてるんじゃないだろうか。
「そうじゃな。うさみ、力を貸してほしいのじゃ。次代か次々代かそのあたりで乗っ取ってやるのじゃ」
「おー」
これが、長い戦いの幕開けだった。