戦争初心者うさみ 26
「……紅の森のエルフにこんな厄介なのがいたのね。森にいたままだったら、落とせていなかったかもしれないわ」
「それはそうだよ。わたし、紅の森出身じゃないっていうかどっちかというとあんまり関係ないもの」
黒いお姉さんはカ・マーゼに味方してエルフの森を落としたのだということを。
うさみは接点がエルプリに限られるということを。
それぞれ告げた。
うさみはすでに、エルプリに手を出したら怒っちゃうぞと伝えているので、うさみ個人には紅の森の味方ではなく、エルプリの味方であると示したことになる。
そろそろ互いの立場はわかってきた。
嘘を言っていなければの話だが。そこはお互い信用したていで行くしかない。内心はともかく。
「それじゃあ本題なのだけど」
「うん、要求は?」
ここまでの会話はうさみがリードすることが出来たが、実際には向こうが有利なのである。
まずうさみに何をさせたいのかを聞かないと始まらない。
「貴女には私の仲間になってほしい。私はカ・マーゼ王国の影の部隊を率いている“黒檀”という暗号名を名乗っている者。紅の森のエルフたちの待機場所まで忍び込める技術、それにその変装術。すごく魅力的だわ」
「……知ってたんじゃん。意地が悪いなあ」
先程、黒いお姉さんが驚いていたのは演技だったようだ。
監禁中のエルフとの接触を把握されているということは、うさみの姿も立場も知られていたのだろう。
紅の森のエルフではないことも、エルプリに協力しているということも聞かれているの違いない。
うさみが気付かない手段で監視していたのか、あるいは捕まっていたエルフの中に内通者がいたのかもしれない。
うさみは自身に直接的に危害をおよぼそうとする者には敏感だが、だまそうとか隠そうとか、そういう方向性だと人並みかむしろ鈍いかもしれない。
なんせ一人暮らしが長いし、多少の損は気に留めないからだ。
必要なら魔法で解決することもできるが、発覚を恐れて魔法を自重していたこともあるので今回は、軽く見ていた、いや甘く見ていたのか。
炎髪巨乳との関係は未確定だったかもしてないが、すでにバラしたので、もうこちらは丸裸である。
乗せられて調子に乗った感じ。恥ずかしい。
でも吹き出してたのは本気だった気もする。なんとなく。
それにしても、なんかもうこういう駆け引きっていうの? 苦手というか面倒というかこうスパッといかないものだろうか。
うさみはストレスでお腹痛くなりそうだった。
「えっと、それわたしがいいよって言ったとして、信用してもらえるのかな?」
「はじめはあの子を預からせてもらう形になると思うわ。強制の魔法か契約の魔法あたりを使う方法もあるけれど、そうすると活動に支障が出るかもしれないのが問題なのよね」
なんだろうこれは。
うさみは変な汗が出た。
エルプリ大事にしてますアピールが逆効果になったんじゃないこれ。
うさみの能力が狙いだというのであれば、エルプリがずっと拘束されることになる。
エルプリとかどうでもいいですよアピールをしていれば、解放される目もあったのではないだろうか。
いやその場合、指とか手とか落として見せて本当に気にしてないか確認しようとするかもしれない。かつて見たテレビでそんなのやってたような気がする。
だったらいいのか。
よくはないが。
「えっと、なんでわたし?」
「はじめは紅の森の生き残り、捕まえて背後を確認してから始末するか人質を増やす予定だったのよ。でも、貴女を見て話して気に入っちゃったの」
「そういうのいいから」
「嘘じゃないわ。私の勘は七割くらい当たるの」
七割って微妙では?
うさみは内心首を傾げた。
「それに従うとね、貴女が言った反撃、社会的打撃とか? あれヤバい」
「ヤバい?」
「止められない気がするのよね。つまり今、この状況からでも貴女は逃げられると」
「え、そうなるの?」
七割を根拠にそこまで飛躍するのか。
“この状況”って言っても、出口に五人待ち構えてて、天井裏と棚の向こうに二人と三人いるくらいであとは特に障害も何もないから……何か罠でもあるのだろうか。
「そして貴女の変装の魔法。貴女が言った通りのことが出来るなら、とても使いでがあると思うの。わかるわよね?」
「まあそれは」
人の格好を真似られるというのは、確かに応用ができる技術である。
有名な怪盗の三世とかのように。
だが、姿を変えられる者は味方にしても信用できるものだろうか。
それも七割の勘で行けると踏んだのか。
ともあれ、うさみは黒いお姉さんを七割さんと呼ぶことに決めた。