戦争初心者うさみ 24
呼び出された場所にいたのは、黒ギャルだった。
うさみは、炎髪巨乳の姿で指定された場所へとやってきた。
その場所はあまり治安のよろしくない地域にある小さくて古い家屋。
入り口が物陰にあり、小汚……薄汚れ……ええと、一見ボロボロの格好の小柄な男が一人立っていた。
「なんだァあんた。売りなら要らねえぞ。カネなんかねえ」
「招待状をもらったんだけど」
声をかけてきた男に、手紙を見せる。
男はそれを確認して、道を開けた。
「入れ」
「ご苦労様」
言われるままに中に入る。
室内は真っ暗だが、エルフであるうさみの目には昼間と変わらずはっきり見える。
そしてそこには、一人の女性が立っていた。
この辺の服飾文化からすると露出の多い格好の、お胸がドンときて腰のあたりがキュとしているお姉さんがいた。
銀髪でガングロ、いや顔だけでなく全身黒い。
「よ――」
「く、黒ギャル!? この世界に存在していたの!?」
「――黒ギャル?」
黒ギャル、黒いお姉さんはなにか言おうとしていたが、うさみが思わず叫んだ言葉に遮られた。
「あ、ごめん。ちょっと勢いで関係ないことを言った」
「そ、そう?」
地球時代、うさみはギャル系の子が苦手だった。
なぜかというと、グループが違ったからだ。
独自言語を用いる彼女たちは集団になると無敵だった。
一人一人だと普通に話せるのに。
お隣のさっちゃんもギャルだったし。
まあ文化が違うというやつだ。最近よく感じる奴。
改めて見れば黒いお姉さんは一人。
なんだか調子崩されちゃったわ見たいな顔をしている。
集団じゃないし大丈夫だろう。
うさみは気を取り直して向き直った。
「エルフなんだね」
「そうよ。改めて、よく来たわね。貴女は、人族かしら? そのわりには見えているようね」
「まあね」
よくよく見れば黒いお姉さんはエルフだった。耳でわかる。
もしかしたら知らない種族だったのかもしれないが、本人が肯定したのでエルフで正解なのだろう。
しかし、人族と思われた?
確かに、炎髪巨乳の姿は人族のものだが。
エルプリから情報を引き出せていないのだろうか?
あるいはなんらかの欺瞞? 聞き出したうえでとぼけてるとか?
まあどっちでも同じか。
エルプリ、無事だといいけれど。
「それで、あの子はどうしてるの?」
「今はまだ無事よ。それも、あなたの態度次第だけれどね。まず、その魔法を解除してもらえる?」
今はまだ、ときた。
そして魔法で変身していることも見抜かれている。
魔法の心得のあるエルフだというならおかしくはない。
うさみが、炎髪巨乳の姿でやってきたのは、この姿で宿を取ったことを向こうが調べているだろうと考えていたからだ。
なぜなら、文面が「娘は預かった」というものだったから。
親子或いは親子を偽装している想定の文面だ。実際に偽装もしていたこともある。
この場合、うさみの元の姿で来たら、炎髪巨乳が伏兵として別にいることを疑われてしまうかもしれない。
炎髪巨乳がうさみであるということを相手に示す必要があった。
信用されなければ人質が危険なのだ。
だが、変身した状態だと、自身に何らかの魔法をかけているということが、見る者が見ればまるわかりである。
何らかの魔法で対策しようとしていると思われてしまう。
となると、炎髪巨乳の姿で向い、魔法を認識して相手の前で解除するしかない。
もっとも、指摘されなければしらばっくれるつもりでいたが。
そうはいかなかったらしい。