戦争初心者うさみ 19
「うぅ……すまぬのじゃ、うさみ」
「あー」
エルプリが捕まって人質に取られた。
□■ □■ □■
紅の森を襲ったのは、人族のカ・マーゼ王国である。
「うさみ、その姿はなんなのじゃ?」
「知り合いの全盛期の姿だよ」
うさみが姿を変える魔法を使って情報収集したらすぐに判明した。
体の大きさまで変えるような変身はできればやりたくなかったので、そういう意味でもエルシスの離脱は痛手だった。
まあ、板としても人族社会の常識を知らないので交渉などは結局うさみがすることになっていたかもしれないが。
余談になるが、うさみが変身したのは、やや長身の人族の女性で、炎のような赤い髪のロングツインでボンときてキュッとしてボーンなメリハリの利いた美人である。
うさみの本来の姿のツルンペタンストーンとはまるで違う姿だ。
「うさみ、そなたそういう大人に憧れておるのじゃな」
「え? あいや、違うよ? わたしが知ってる中で一番社交性が高い人のカッコを真似ただけで」
「いやいや、わかるのじゃ。背が高いねえさまはかっこいいのじゃ。じゃが、胸が大きすぎるのは大変じゃという話じゃよ?」
「だから違うって……」
話を戻す。
エルフの子ども二人では情報収集もままならないのは目に見えている。
エルフ攻めの直後である以上、エルフという時点で狙われる対象であることは想像に難くない。
その上で子ども、となると。
エルフ攻め関係なく誘拐されて売りとばされてもおかしくない。
エルプリもうさみもかわいらしい外見をしているのでなおさらだ。
それでもうさみ一人ならどうにでもなるのだが、人族社会の常識を知らないエルプリと一緒となると目立ち方が段違いであるのだ。
だから、うさみが人族の大人の姿に、エルプリには髪の色を染めたうえで耳を隠すという基本的な変装を施した。
そして旅の母子という設定で、人族の村や町で話を聞いて回ったのである。
その結果、男はみんなおっぱいが好きだということが分かった。
どいつもこいつも胸元に視線を向けるのである。
軽くゆすってやったら一撃で口がペラペラになる。
あーもーやってらんないなー。
…………ではなくて。
カ・マーゼ王国は人族の王を戴く人族中心の他種族国家である。
紅の森のエルフは参加していなかったが、人族以外の種族が場所によって一割から三割程度暮らしている。
比較的穏当な歴史を持つ国だ。
幾度かの戦乱を小勢力を糾合することで乗り切った寄り合い国家。
特筆すべきはかつて魔王を倒した勇者の末裔を自称するのが現王家だということか。
そんなのいっぱいいるのでやっぱり特筆するほどではなかったかもしれない。
勇者と魔王は神話の時代から逸話が残っているので自称子孫はいくらでもいるのだ。
さてそのカ・マーゼ王国だが、近年、近くに現れた強国のからの強烈な圧力を受けている。
すでに何度か戦争で負けており、領土を奪われているのだ。
その状態で代替わりした。
事情については雲の上の話で、先代国王が病死だとか、逃げただとか、クーデターだとか様々なうわさが流れている。
農繁期ごとの休戦のたびに占領された領土割譲の追認を行っている状況で
民はこの国ももう終わりかとあきらめていたのだが、新王が思わぬ動きに出た。
親衛隊と宮廷魔術師団をとりまとめ、突如エルフの森へと攻め入ったのである。
そして、なんと、エルフを多数捕虜にして帰ってきたのだ。
後なんかでっかい岩を運んでいた。
というのが大まかにまとめた情報である。
戦利品は王都マーゼへ運ばれて行ったらしい。
つまり、うさみたちの目的地は王都マーゼである。
ということで、王都マーゼに潜入することになったのだ。