使い魔?うさみのご主人様 16
「にがまずっまぶしっ!?」
メルエールが気がつくと、口の中に異常なマズさの物体があった。
そして思わず跳ね起きると、顔の上にかけてあったものが落ち、強烈な光が目を灼いた。
「あ、起きた」
誰かの声が聞こえたがそれどころではない。
「ぐおおおおああああああ!?」
およそ年頃の乙女が出すべきではない声を出しながら、メルエールは転げまわった。
目を両手で抑えて舌を出してごろんごろん。
痛いマズいなんだこれどうなってるの。この世の地獄か。ごろんごろん。
そうしていると、いきなり頭が左右から柔らかいものに挟まれて固定されたかと思うと、口に液体が這入りこんでくきた。
すると口の中いっぱいにまずさが広がった。
「へびゅっ!?」
思わず吹き出す。
「うわばっちぃ! こら、ちゃんと飲みなさいってば」
額をぺチンされ、再び液体を注ぎ込まれるメルエール。
なにこれどうなってるの。
腕を振るって払おうと思ったが、目が痛いのを抑えているせいか張り付いたように動かない。
ついに鼻までつままれ、飲み込むしかなくなる。
「ん……んぐ……ぁぐ……ぷはっ」
そして気づいた。
これただの水だ。
それにこの味は、例の解毒剤(嘘)だ、と。
注がれるだけ飲み込むと、口の中のまずさが徐々に緩和されていく。
はじめに解毒剤の味が広がったのは、すでに口内にあったものが水で広がったせいか。
そのうちに、目の痛みも取れてきたのでそっと手を外すと。
「まぶしっ」
慌てて手でひさしを作って目を守る
光源を直視しないように周りを見る。
メルエールが落ち着いたと判断したのか、メルエールの頭を固定していた何者かが離れていく。
今気づいたけどあれは太ももか。
そこはメルエールの寝台だった。
信じたくないけど。なぜならお布団が緑色の混じった液体によって汚されていたからだ。
しかし間違いなかった。
日の出のような光を出した自分の部屋だった。眩しい。
「あーあ、もう、汚されちゃった」
そう声をかけてくるのは、メルエールの使い魔(使い魔ではない)うさみだった。
緑色の混じった液体をぶっかけられている。
「いったい何が」
「魔力切れで気絶しちゃったからお薬含ませて寝かせたんだよ?」
そして目覚めとともに大騒ぎし始めたので水を飲ませたのだそうだ。
薬がマズいのはうさみも知っているので、みずで流してあげようという善意からであったという。
結果緑汁まみれである。
「今日は、わたし洗濯だねー」
やれやれとうさみは肩をすくめてから、寝るとき用の肌着をすぽーんと脱いで、活動用の服に着替え始める。
メルエールはなぜか上から目線のうさみにイラッとして、誰のせいだ、と思ったが別の疑問を優先した。
「お薬ってあれは解毒剤じゃなかったの?」
「それは嘘だって言ったじゃない」
嘘だった。
いや、言ったけども。
メルエールは何とも言えないもやもや感を覚えた。
「あれは魔力の回復を気持ち助ける薬だよ。ないよりましくらいのものだけど。魔力使い切って気絶したから一応ね」
「そんなものをどうやって……」
うさみはお金など持っていないはずである。
「作ったんだけど」
「作った!?」
「うん、夜出かけて」
魔術薬を作ることができるのか、このエルフ。
メルエールは驚いた。
調薬の技術を身に着けていたのか。魔術を使えないが、そういう方面で手に職があれば生きていける。
なるほどなあ。きっと親が考えて教えているのだろう。
メルエールは一人で納得していた。
「じゃ、じゃああの苦い液体も?」
「うん、あれも作ったやつだよ。一週間かけて一定量のまないと死ぬ毒だよ。嘘だけど」
また嘘か。
もう何が本当かわからない。
メルエールは納得したり混乱したり呆れたりで忙しい。
「まあそんなのはどうでもいいんだ。それより汚れたの水につけとこっか」
「え」
うさみが脱いだ服をまとめ、いまだ寝台に転がっていたメルエールをポイと投げ捨てると同時に服を剥ぎ、さらに布団をさっと持ち上げて持って行ってしまった。
裸にされてポイされたメルエールはしばらく呆然としていたが、一つためいきをつくと寒かったので箪笥から服を出して着こむのだった。