戦争初心者うさみ 16
「ここが紅の森か」
うさみはあたりを見回した。
そして、しゃがんで地面に手をつく。
「焼け野原だね。森だけど……もうだいぶ経過してる」
真っ黒な燃え跡を触ったうさみは、その温度から燃やされてから日単位で経過していると判断した。
うさみによってその日のうちに到着した紅の森のエルフの集落は、周囲の森の一部を巻き込んで焼き尽くされていた。
エルプリとエルシスは、その景色の前で呆然としている。
それを尻目に、うさみは元集落を検分して回っていた。
そしてある場所で足を止めた。
「……なんだろう、この穴」
それは、うさみが丸ごと入りそうな深さで、五人くらい入りそうな広さの穴だった。
人の手で掘られたものである。
横に土の山ができていた。
ただ、その土の量が、穴の大きさに見合わなかった。
「ここには、紅の森の秘宝があったのじゃ」
エルプリとエルシスが、追ってきていた。
「秘宝?」
「三千年前の勇者が使った伝説の剣。魔剣死紅」
魔剣。
勇者なのに魔剣なのか。しかも名前も物騒だ。
「当時の魔王にとどめを刺したという、紅い刃の剣だ。斬られた者の命を吸い取ると伝わっている」
「すごく物騒な感じの剣だね。聖剣とかじゃないんだ」
「聖剣なら神殿が手放さぬだろう。扱いが難しい危険物こそ、エルフのもとに封印されているのだ」
「よくそんなの受け入れてるね」
「エルフでなければできぬ、エルフだからこそできることなのじゃ」
胸を張るエルプリだが、その顔にはまだ、影があった。
いや動いて話ができるだけでも気丈だと言っていいだろう。
故郷が焼き尽くされ消滅しているのだ。
たとえ半ば予想していたのだとしても。
二人いたからということもあったかもしれない。
うさみが調べて回っている間に二人で話をしていたことには気づいていた。
何を言えばいいかわからなかったし、口を出すべきでもないと思ったのであえて近寄らなかった。
「……封印かあ。ここに埋まってたの?」
そうだとしたら、穴と土の差分から考えて、かなり大きな剣である。
「違うのじゃ。ここにあった大岩に刺さっていたのじゃ。じゃから、刃の色が分かったわけじゃな」
「……」
んんん?
「じゃあこれ、石ごとその剣を掘り出していったってこと!?」
マジかー。
抜けなかったのかな。
「おそらくな。この岩に刺さった死紅はふさわしい持ち主でなければ抜けないと言い伝えられていた」
がんばって掘って持って行ったんだろうか。
ちょっと笑える絵である。
だって剣刺さってる岩だよ。
しかし、そのためにやったことは笑えない話である。
「抜けない剣のためにこれをやったのか……」
うさみは改めてあたりを一回り見回し。
「これからどうする?」
尋ねた。
答えによってはここで手を引くつもりだった。
もともと、どこまで首を突っ込むかというのはまよっていたところで。
守るべきものが無くなってしまっていたのなら、救援としてやってきたうさみはお役御免だろう。
「魔剣死紅をどうするつもりか確かめねばならぬのじゃ。それと、生き残りがおらぬか探したいのじゃ」
エルプリは、うさみの目を見てはっきりと答えた。
エルシスも頷いている。
うさみは、それくらいなら付き合ってもいいか、と思った。
いや、思ってしまった。
これが長きにわたる付き合いになるとは、この時は思っていなかった。