戦争初心者うさみ 14
恣意的に表現するなら、うさみたち、いや、エルプリたちは追い出された。
「紅の森の苦難は理解した。力になろう、と言いたいところであるが、我らもまた獣人の侵入に悩まされておる。今も主力が迎撃に出ておるほどだ。迷いの結界も弱まっておるしな。そして我らの最大戦力を双方無傷で下す者がいるのにこちらから出せる戦力では不足であろう。そちらの浮草を連れ帰り力を借りるとよろしかろう」
と。
服と当座の食糧を与えられて、ぽい。
であった。
服をもらえたのは大変助かったが。
「いや、なんかごめん」
なんだかんだと理由はつけているしそれも嘘ではないだろうが、かなりの部分うさみのせいだろう。
だってさっきのセリフ言ってる間めっちゃチラチラうさみを見ていたもの。
「いや、そなたがおらねばそもそも辿り着くこともできなかったのじゃ」
「それとこれとは別の話だと思うけど、まあ、そう言ってくれるなら」
知らないことは危険なことだと改めてうさみは思う。
エルフの文化と精霊について知っていれば違うやり方をしていたかもしれない。
向うのやり方も大概勝手で、向こうの都合に合わせた結果がこれなのではあるが。
配慮したつもりで失敗して、子どもに許されるとか、情けないやら恥ずかしいやら。
いっそ知らないことに近寄らずにすめばいいのだが、誰も来ない場所に引きこもりでもしない限りそれは難しいだろう。
それに今生ではその引きこもる場所を探しているわけで。
何度も生きているが知らないことはまだまだ多いものだ。
「じゃあ話を変えて。とりあえず、エルシスさんをどうにかしようか」
片足無くして歩けないエルシスまで一緒に出されたのである。
エルフはエルシスのようになったらどうするのかと尋ねると、木になるのだという。
これは比喩でなく、エルフに伝わる秘術によって有用な樹木に変化し、氏族の生活のためになるのだそうだ。
もちろんそうなると元には戻れない。
ちょっとうさみには理解できない文化である。
「紅の森に行く前にどこかで治すべきだと思うんだけど」
「いや。エルプリ、私は置いて森へ帰るべきだと思う」
うさみの言葉を否定するのはエルシス本人である。
うさみとしては、せっかく助かった命を置いて行くのははっきり嫌だ。
だがそれを言う前に、エルプリが口を開く。
「エルシスねえさま、治せるというのなら治すべきなのじゃ。そうでなくとも、戦力は足りておらぬ。それに」
エルプリは言葉を切ってうさみを見た。
「うさみにまだ頼んでおらぬのじゃ。うさみ、改めて頼む。そなたの力を、最後まで貸してほしいのじゃ。エルシスねえさまと、紅の森を助けてほしいのじゃ」
本当に子どもとは思えないしっかりした子である。
「エルシスさんは面倒見るよ。紅の森も、乗り掛かった船だし、出来るだけのことはするつもりだけど」
「船?」
「船というのは湖や川に浮かべるものだ」
ここまで関わったことである。
一区切りするまでは協力するつもりだった。
うさみの行動で得られたかもしれない支援が得られなくなった分は働いておきたい。
エルシスもうさみがついていなければ生きていけない状況でもある。
ここで放り出すならそもそも助けなかった方がよかったくらいだ。
戦争とか本来なら関わりたくないが。
自分の行動の結果は受け入れるべきだろう。
「とにかく、そういうわけだから、まずエルシスさんを歩けるようにしましょうか」
「ありがとう」
「すまん」
エルプリとエルシスが頭を下げる。
改めて思う。エルシスはやりにくいだろうなあと。
エルプリは子どもである。
うさみも見た目は同じくらいだ。
他にもいた保護者は亡くなっている。
うん、少しでも負い目を減らしてあげよう。
「とりあえず義足を作ろう。エルプリちゃん、立たせてあげて」
「? わかったのじゃ」
「どうするのだ」
義足がわからないらしい。
とりあえず従ってもらい、立たせる。
「んー、ズボンが邪魔だね。エルプリちゃん、脱がせて」
「わかったのじゃ」
「は? いや待て、私は女だぞ」
「そんなの見たらわかるって」
エルシスの悲鳴が響いた。
なお、橙の森の迷いの結界を出てすぐの場所であった。