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戦争初心者うさみ 11

 はじめうさみは、矢をかわしていた。


 矢が追尾してくることが分かってからは、樹木という障害物を利用しながら全方位から飛び来る矢の間を抜けるように動いて、アルナイとの距離を保っていた。


 矢を撃ち尽くしたらしいアルナイは接近を試みるが、うさみは矢に追われながらもそれを許さず、一定の距離を維持していた。

 木々、矢、そしてお互いの間合い。

 これを掌握して、逃げ回るだけで、時間が過ぎていき。



 そのうちに、矢より早く跳ね回るようになった。



 そして。



 全ての矢を背にした状態で、アルナイへ向かう軌道を取った。



「“アルナイ”ってあるのかないのかわかんないよね」

「!?」


 そのタイミングで、うさみはアルナイに向かって言葉を発した。

 中身に意味はない。

 ただ、名前を呼んで注意を引いた。


 今までアルナイがなにか言っていたのを全部無視してきたうさみが、話しかけてきたのを受けて、アルナイがわずかに動揺する。


 しかしそれは本当にわずかで、矢が向きを変える程度の時間で立ち直った。


 その間に、矢と、うさみと、アルナイが直線に並ぶ。



 矢の如き、いや文字通り矢の速さで状況が動いた。



 アルナイが斬撃を飛ばす予備動作に入ると同時に動かなくなったのはうさみによる干渉によるものでそのうさみは足を止めたかと思うと三十六の矢を間をすり抜けた。


 矢はうさみを追尾するために向きを変え弧を――描かなかった。


 そのまま直進し、アルナイへと殺到し。

 アルナイは身動きせずこれをかわすことなく。


 命中する直前で何かにぶつかったかのように軽い音を立て、弾かれたように地面に落ちた。




「捕まえたっと」


 そんな様子を横目に、うさみは何かを引っ張るような動作をしていた。

 まるで、うさみから見てアルナイとは反対方向に紐か何かが伸びており、その先に居るものを引きずり出そうとしているかのようだった。


 というか引きずり出した。



 それは、指向性を持った魔力塊である。

 魔力を知覚できるものならばその密度と量に驚くことだろう。

 そしてこの魔力塊から何本もの紐状のもの伸びていることに気づくかもしれない。

 その紐はうさみの手の中で束ねられ、これを引っ張られて森の中から引きずり出されていた。


 魔力塊から感じ取れる危険度は、レベルで言うなら百五十ほどか。

 アルナイよりはるかに高い。


 しかしうさみは怯むことなく、この魔力塊に手を突っ込んだ。


「せ、精霊様!?」


 エルフたちがなにか言っているが、とりあえず魔力塊を無害化するのが先だ。

 うさみは魔力塊が持つ魔力を切り離して支配下に置いた。

 単純な魔力制御力の比べ合いだ。

 これに関しては、うさみはこの世界の存在にそうそう負ける気がしなかった。

 力押しは得意だ。

 難しいことを考えるよりはるかに。



 そして魔力塊の持つ魔力を半分くらいまで減らした上で、奪った魔力で球形の外殻を形成し押し込んだ。

 これで魔力塊は自由に動けないし、うさみが制御している限り外に影響を与えられない。

 突破するためには外殻を構成する魔力と同程度の魔力を集中する必要があるため、内側から拘束を解くことは事実上不可能だ。



 ここまでして、うさみはようやく安心して、改めてアルナイを見た。


「矢を外付け制御で追尾させていたんだね。見えない場所でも正確に追ってくるし、木を完ぺきに避けるし、本人が動揺しても挙動に齟齬が出ないし、初めは器用なのかと思ったけど」


 アルナイは、斬撃飛ばしの予備動作を途中で止めたままだった。



「何が、いや、精霊様をどうした!?」

「精霊様? っていうか見ての通りだけど」



 まず、攻撃の溜め動作で隙だらけのアルナイの体、特に間接周辺を魔力力場でガチガチに固めた。

 これでほぼ動けなくなる。テコの原理的に考えて。


 次に追いかけてくる矢をかわして、矢につながっていた魔力塊から伸びている紐を切除しつつ束ねて侵食。

 アルナイに矢が刺さりそうだったので魔力力場を伸ばして防御して。

 紐を引っ張って魔力塊を引きずり出した。

 以上。



 しかし、この魔力塊が精霊というやつか。

 指向性

 外殻を作ったので一時的に目で見える。

 と言っても単なる光る球体だが。

 代わりに面倒な制御をやってくれるなら便利かもしれない。

 だが、精度や速度が落ちるなら自分でやった方が早いか。


 そんなことより。



「それより降参しない? ここからまだやれるのなら、付き合うけど」


 うさみは降伏勧告をした。

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