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戦争初心者うさみ 10

 見た目、成人男性対女の子。武器あり対武器なし。里の実力者対浮草。

 うさみが勝つ目はないように見えた。


 むしろ武器を持たないことを心配して貸し出そうかという申し出たのををうさみが断ったことで面目を潰したと怒りを抱き、白樺の氏族、橙の森の一族が子、アルナイがこてんぱんにすることを期待していた。







「わ、矢が曲がってきた」


 うさみは逃げていた。

 よーいどんの試合で弓。

 距離は十分開いている。

 矢が尽きるまでまず逃げようということだ。

 向こうが満足するまで逃げきれば、エルプリの証言を実証するには十分だろうと。

 下手に被害を与えたりすると逆にこじれるかもしれないし。



 なんか、避けるのはうまいようだな、とかアルナイが叫んでいるが無視。



 逃げるのは得意分野である。

 矢が飛ぶ軌道は決まっている。射出されたら避けるのは簡単だ。


 と思って避けたら矢が曲がったのである。

 一本二本三本、おそらく小手調べだろう矢を避けていたら、次で突然である。



 ほう、これも避けるか、とかつぶやいている人がいるがスルー。



 そしてそこから文字通り矢継ぎ早の攻勢が始まった。


 次々繰り出される矢がうさみを襲う。

 うさみはアルナイからの距離を保ちながら回り込み、木を盾にするように動く。死角となる位置で樹上に移動した。

 エルフの集落ということは木があるということ。

 そのはずれとなれば

 アルナイは距離を詰めつつ射線をとろうとしつつも射撃を続ける。

 矢が曲がるなら死角に居ても飛んでくるわけだ。


 とはいえ位置が捕捉されていなければ当たりはしない……って、追ってくる!?

 というかちょっと数がおかしくない?


 うさみは樹上を地上を幹を跳ね回りながら矢をかわす中で異常に気付いた。


 かわした矢が速度をそのままに回り込んでまたうさみを狙っている。

 よく森の木に当たらないことだ。

 曲がってる時点で大概おかしいのだが。全部の軌道を把握して追いかけさせているのか。


「質量保存の法則とか……っと」


 そんなものはこの世界では当てにならないらしい。



 我が矢は当たるまで追い続けるぞ、とか言っている人は置いといて。



 ゲーム時代の感覚で言うと、レベル四十くらいまでは現代日本の常識内、六十とか越えたらもうファンタジーな世界だった。魔法関係のスキルは別枠としても。

 例えば百メートルで十秒切るくらいなどが常識内だ。地球人類トップクラス。


 この例えで言えばうさみはすでにファンタジー生物である。

 自動車よりはるかに速い速度で走り、その速度で移動するに十分な反応速度がある。

 この基準はおおむねこの世界においても通用した。

 魔物の水準から周辺の人間のおおよその強さの上限は測れる。

 命を奪って強くなる水準をゲームに合わせてレベルとするなら、高レベルになるためには相応の数殺す必要があるからだ。

 自分よりレベルが大幅に低い相手を殺しても大した足しにならないので、強い敵を殺せなければどこかで頭打ちになる。


 この世界を繰り返し生きた経験のなかで戦いなんてほとんどしたことはないが、それでも危険度を見抜くのはうさみの得意な分野と言っていい。

 そんな経験と体感を合わせて考えるに、アルナイというエルフはレベル九十程度だろうと見当をつけた。


 ザックリとした水準だが、人類トップクラスが百程度。百を超える特異固体が偶にいるが、彼らは例外。普通の人類が経験次第でだれでもたどり着けるのが百なのだ。

 人類領域と魔境の最前線のなかで最も争いが激しいあたりに身を置いて運よく生き延びれば自然と届くだろう。

 これを超えるのは本当に特殊な存在だ。


 というのを前提にすると、引きこもりとしては最上級ではないだろうか。

 周辺の魔物が七十あたりが上限であることを考えれば破格である。

 過去もっと強い魔物が棲んでいたのか、森を離れて生活したことがあるのか。

 エルフは千まで生きるので、集落で一番の戦士に意外な過去があってもおかしくはない。関係ないけど。



 で、九十くらいだとどれくらいのことが出来るかという話だ。


 そもそも射撃武器はあまり強くない。

 武器に威力が依存し、射出した後は介入できないからだ。

 介入できる程度の速さでしかないのなら、同格の相手なら射出物をかわしてしまうだろう。


 その弱点を埋める手段が必要だ。


 武器に依存せず威力を上げ、また、回避を困難にすること。

 今アルナイがやっているように速度の劣化を防ぎ、高い精度で追尾するというのは一つの回答。

 そしてその数を増やすのも発展の方向としては妥当である。

 さらに言えば、きっとこの矢は命中すると何らかの特殊効果が発生することだろう。

 威力をカバーする意味で、そうであってしかるべき。

 強い衝撃を発生させたり、貫通力を強化したり。

 あるいは単純に毒でも塗ってあるかもしれない。


 なんなら突然矢が爆発することもあるかもしれない。

 避けたと思った矢が爆発するとしたら不意打ちとして十分だ。


「いやそれはないかな」


 うさみはアルナイを中心に大きく回って距離を維持し、矢をすべて後方へまとめるように動きながらつぶやいた。



 逃げるばかりか、とかなんとか言っている声がちょっとふるえている。



 木を避ける矢である。

 エルフが木を大切にしているというのは人族の街で耳にした定説だが、どうも実際にそうらしい。

 矢を誘導して木にぶつけようとしてもうまく木を避けてしまうし、すれ違うように避けても実際に爆発しない。


 追尾する矢を減らさないためとしても力の入れようがおかしい。

 追尾力より木を回避する性能の方が高いって。


 木を傷つけることを避けていると見てよさそうだ。

 ならば、爆発はしないだろう。

 木を巻き込む恐れがある。

 爆発からも木を守る方法があるなら別だが……まあ何よりも、うさみの危険を嗅ぎ取る感覚がまるで反応していないから多分ない。


 木々を縫うように、跳ねまわり矢の動きを制限して誘導していく。


 そしてついに合計三十六の矢がうさみの後ろについた。

 ひとまとまりになってうさみを追いかける。


 アルナイは矢を撃ち尽くしたらしく、剣鉈を抜いてうさみへの距離を縮めようと動いていた。

 しかしうさみは一定距離を保ち続ける。


 なんだかんだ器用な相手だとは思うが、九十の水準としては物足りない。もっと人間離れしていてもおかしくないはずだ。

 もう一声何かできそうなもの。

 まだ他に隠している手があるはず。

 例えば剣を振って斬撃を飛ばす、なんてのはメジャーな攻撃方法だ。

 剣を使う高レベル者なら使えて当然の技術。

 そう仮定して射程と思われる距離を維持しているのだが。


「まあ、そろそろかな」


 距離を詰められるわけでもなく、矢に追いつかれるわけでもなく。

 切り札を切ってくるつもりもないようで。

 そして試しが終わるわけでもない。


 そろそろ終わらせよう。

 なんだかんだいい練習になった。

 うさみは跳ぶ方向を変えることにした。

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