戦争初心者うさみ 9
うさみは白樺の氏族、橙の森の一族が子、アルナイと名乗ったエルフ(年齢不詳男性)と対峙していた。
「降参するか行動不能になるかだ」
「ああ、はい。どうぞ」
エルフの集落のはずれ、関係者と橙の森の責任者の立会いの下、エルフの試しが今まさに行われようとしている。
固唾をのんで見守るエルプリ、その横で座して窺うエルシス。
橙の森の長老と側近が曇りなき眼で見定めようと二人を見つめている。
なぜこんな話になったのか。
それはうさみが寝ている間にエルプリが健闘した結果だったらしい。
救援を求める使者を名乗ったエルプリは事情をすべて正直に話した。
紅の森が人族に侵されつつある事。
救援を求めて最寄りのエルフ集落である橙の森へたどり着いたこと。
しかし、獣人族の襲撃を受け、護衛を兼ねた姉たちとはぐれたこと。
そしてついに自身もつかまりそうになったところで、うさみに助けられたこと。
うさみは浮草の氏族であること。
集落の場所を魔法で調べ、同時に危機にあったエルシスを救出、橙の森の集落へ逃げ込んだこと。
エルフは嘘を嫌うらしい。
閉じたコミュニティで嘘をつく者が居たら害悪だからだろうと、うさみは解釈した。
であるからには、正式な使者が嘘をつくはずもなく、受け入れられ、救援のための人員が派遣されることになる。
はずだった。
普通なら。
「浮草が怪しい」
ぽっと出で出自が怪しい輩が偶然助けて隠蔽していた里の入り口を突破して逃げ込んできた、という話でなければ。
しかもそれが子どもにしか見えないものが為したという話だ。
エルプリは正直に話した。
しかし、うさみの存在が怪しかったので、橙の森は判断に困った。
橙の森がうさみを怪しんでいることに気が付いたエルプリは、うさみを弁護する。
ものっすごい速さで樹上を駆ける。それも二人担いで。とか。
あっという間にエルシスを助けてきた。とか。
だが、エルプリが熱心に語れば語るほど、うさみの胡散臭さは際立った。
なんならエルプリが騙されているのではないかと疑われたんじゃなかろうか。
その結果が“エルフの試し”という。
要するに決闘まがいの力試しである。
エルプリが語る内容にそぐう力をうさみが持っていたならば。
エルプリを信用することが出来る。
うさみを信用できるかどうかはまた別の問題であるが。
だが、それも含め、試しによって多くが明らかになるだろう。
というような感じでエルプリが丸め込まれて来たらしい。
うさみとしてはなんだそれである。
あるが。
例えばこれで、うさみが逃げたらどうなるか。
エルプリは立場を失くすだろう。
よくわからんやつに騙された者となって……あれ、別にそれはいいのかな。
うさみが悪く見られるのは別に構わない。
今生に限ったことだし、多分もうこのへん来ないだろうから。
じゃあさっさと逃げようか……と思ったところで、エルシスのことを思い出した。
エルシスの体を構成する物質にはうさみの魔法で維持しているものが含まれている。
放置するとそれらが代用している機能を失ってエルシスが死にかねない。
やっちゃったかなこれ。
魔法を維持するにせよ、何らかの手段で完治させるにせよ、側にいる必要がある。
これ逃げたら非道だ。
エルシスを連れて逃げる手もあるがそれもまたエルプリが困るだろう。
逃げ道をふさがれてしまった。
自業自得である。
いや牢屋が暇だったのがいけない。
暇で怪我人が居たらできる範囲で治療しようとするじゃない。当たり前だよね。
うさみは意味のない逃避をしながら。
弓を構え剣鉈と矢筒を腰に提げた白樺の氏族、橙の森の一族が子、アルナイを見つめるのだった。
どうしたもんかなあ。