使い魔?うさみのご主人様 15
「はん! せい! かーい!」
今日は一日いろいろあって肉体的にも精神的にもクタクタだ。
なので、さあやっとゆっくり寝られるぞ、といったところで、うさみが小さく叫んだ。夜中だからか。器用なことを。
「あたしもう今日は疲れているのだけど。寝ましょう?」
「だめー。練習の一環ですー。ほら明かりつけてメルちゃん様」
メルエールはしぶしぶ明かりの魔術を使う。
するといつもの明滅する薄暗い光源が現れた。
「ねえこんな揺らめく火の明かりみたいなのじゃなくて、もっとおひさまみたいにできないの? 今日朝日の出見たじゃない、あんな感じでさあ」
「そう簡単にできたら苦労しないわ」
日の出前から外で活動していたので、日の出をちょうど目撃したのである。
山の向こうから太陽が顔を出す瞬間を目にして、おお、綺麗……まぶしっ、と思ったのを覚えている。
そうやってよそ見しているうちに、うさみを見失って、後ろからおしりをぺちんされた。
うさみゆるすまじ。
「そういわないでやってみてよ。どうせもう寝るだけだから、魔力なくなっても平気でしょ。練習だよ」
そんな軽く言われてもどうしたものやら。
仕方ないのでメルエールは魔力をこれでもかと込めようとしてみる。
決まった手順で同じように発動する魔術になぜ個人差があるかというと、魔力の込めかただとか、想像力が関係しているとか、諸説あるらしい。
なので魔力をたくさん込めるような心持ちで、日の出のときのことを考えながら魔術を使った。
魔力が多くつかわれる感覚。
火球の魔術は明かりの魔術の3~4倍の魔力を使うといわれている。
それと同じくらいもっていかれる。
「うお、まぶしっ」
煌々とあたりを照らす光源が出現した。
明滅することなくただあたりを照らし続ける光。
「明るすぎだね。背中向けて……もまぶしい。場所変えようか」
寮室に付属している使用人部屋へ移動する。寝台の上にうさみが召喚されたときに持っていた薄手の毛布がたたんでおいてあり、ほかには箪笥があるばかりで、ほぼ未使用の部屋である。
メルエールは使用人を連れてきていないので倉庫代わりにでもしようとしていたが、モノがあまり増えなかったので現状手つかずだった。
そして布団を用意してうさみに使わせる予定なのだが、バタバタしてまだ発注できておらず、まだ同じ寝台で寝ることを許している。
「じゃあもう一回ね。さっきのは眩しすぎたから、今度は、日の出前くらいの明るさでいいかなあ。明滅しないやつね」
「注文多いわね。魔力がもう少ないのに……」
ぼやきながら、メルエールは魔術を使う。
文句を言いつつも従ったのは、成果が出たからだ。
何故かはわからないが、今までとは違う結果が出た。明るすぎるという失敗ではあったが、魔術自体は成功した。
今までよりも、より強い魔術だ。
いつもの使い方と、先ほどの使い方の違いを考える。
日の出のことを考えた。そして、より多くの魔力を使おうと試みた。
いつもはどうだったか。
メルエールにとって、明かりというと火であった。
焚き火である。
ロウソクや油なんて高いものを使う余裕はなかった。
屋内ではそもそも明かりなど使わない。暗くなれば寝てしまうものだ。
屋外で夜を過ごす時の焚き火の明かりがメルエールの明かり。揺らめく炎だ。
考えを改める。
日の出前、だんだんと白んでゆく空。山際から太陽が顔をのぞかせる、その前の。澄んだ空気と、これから一日が始まるというのにフラフラになるまで走りまわされて……ちょっとずれた。
太陽の光は揺らめかない。
力強い光を浴びると暖かくなる。
しかし眩しすぎる。
太陽が昇る前がちょうどいい。たしかにそうかもしれない。でもちょっと薄暗いのでは?
魔術を使う。
薄暗いが、明滅しない明かりが生まれる。
手ごたえあり――!
そしてメルエールは気を失った。