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戦争初心者うさみ 8

 うさみは牢に入れられていた。




「怪しい奴らだ。ひっ捕らえろ」


 獣人族を避けて橙の森に逃げ込むと、即座にエルフに囲まれてしまい、そのまま牢屋行きとなったのだ。

 ぐるぐる巻きの大人エルフを肩に担いで、子どもエルフを小脇に抱えて、跳び込んできた子どもエルフ。

 そりゃ怪しい。


 怪しいけれども。

 こっちは怪我人と子供二人だ。

 同族の。

 エルフは若木を貴ぶじゃなかったのか。


 などと思ったが表には出さなかった。

 うさみ一人ならさっさと逃げるところ、いやそもそも近づかないところだが、今回はエルプリと、重傷のエルシスがいるのだ。

 うさみが離れればエルシスはまた出血を始めて亡くなるだろう。

 救援を求めに来たというエルプリの立場も悪化するだろう。

 ここはおとなしくしておくところだ。




 ということでおとなしく捕まったのだ。


 エルフの牢屋は蔓で編まれ大きな木の枝からぶら下がった宙づりの小部屋だった。

 地上にいたのが見る見るうちに周りを固められ、エレベータのように吊り上げられたのだ。

 正直逃げるのは簡単そうなのだが。

 むしろ反応を見ようとしているのかもしれない。


 問題はエルプリがひとり別にされていることだ。

 紅の森の赤樫の氏族の使者を名乗ったからである。

 気絶したままの怪我人エルシスと、特に主張しなかったうさみはいっしょだ。


 おそらく相互に人質としてみているのじゃないだろうか。

 エルプリの話が通れば解放されるとは思うが。


 うさみはできることもないのでエルシスの看病をすることにした。

 魔法で生命力を強化しているので、簡単には死なないが回復のためには材料がいる。

 最も正道なのはにちゃんと栄養を摂ることだ。そうでなければ体は自分を分解して材料にしてしまう。

 しかし気絶しているから、さて。

 点滴でもできればいいが、そんなものはない。


 あるいは錬金術で作った魔法薬でもあれば。使う予定がなかったので準備をしていない。



 ……ん、待てよ。


「食事の代わりの魔法」


 うさみは思い付きで魔法を作って使った。

 食事によって得られる栄養素を代用する魔法だ。

 代用として体内に入った物質を維持し続ける必要はあるが、生命力、回復速度の強化度を高めるとの併せて使えば傷はふさがる。

 あとは普通に新陳代謝して魔力で構成されている部分が排出されるまで維持すれば元通りだ。

 本人の治癒力が基本にあるため、欠損部分の再生まではできないが。


 三つも魔法を使っておいて効果は神聖魔法の劣化だが、とりあえずの処置としてはこれでいいだろう。

 一日一回くらい体内の魔力構成物に魔力を供給し活性化すれば維持できると思う。


「よしよし」


 傷がふさがったことを確認し、うさみは満足して頷いた。

 これで傷口を魔力で押さえなくて済む。

 ずっと手を当てているようなものでそれなりに大変だったのだ。


 そして布を巻きなおして、さらに毛布を取り出してくるんでおく。


 そのあとうさみは食事をすることにした。

 他にすることがないのだ。

 牢屋の中をリフォームしても仕方がないし。


 ポーチに入れていた草や豆を適当にもしゃもしゃする。

 手をかけられるときはちゃんと料理するが、牢屋の中ではこれで十分だ。いいもの食べてたりすると見とがめられるかもしれないし。

 粗食に慣れているのだ。特に今生では移動ばかりなので。


 適量を摂取したのち、完全にすることがなくなったうさみは寝ることにした。

 エルシスが起きれば話もできたのだが、体が回復に集中しているせいだろう、まだ目を覚ます気配はしない。


 うさみは毛布をさらに取り出して足元に敷くと横になった。






「動けぬ。なんだこれは、どういう状況だ」


 寝て時間を潰していると、近くから声が聞こえてうさみは目を覚ました。


「あ、起きた? えっと、エルシスちゃん?」


 さほど時間は経過していない。一時間くらいか。

 この短時間で目を覚ましたのが早いのかどうか。

 比較対照ができないのでわからない。


 そんなことを思いながら、うさみは身を起こした。


「ここは、樹牢か。お主は誰だ。なぜ私は拘束されている」

「えっとねえ」


 全身布でぐるぐる巻きにされて混乱しているエルシスに、うさみは事情を説明しようと口を開いた。


 そこで。


「お?」

「む?」


 牢……エルシスの言葉で言うなら樹牢が、吊り下げられた時の逆の動きをはじめた。

 つまり、下りエレベータである。


 そして地上にたどり着くと声がかけられる。


「浮草よ。汝の力を見せよ」

「はあ?」


 うさみは思わず、何だよいきなり偉そうに、という思いを漏らしてしまった。

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