戦争初心者うさみ 7
「んー、識別、人類、あー、種族。どうやって、いや神聖魔法のソース使える? 名前か。神様システムを……データベースないのかないや参照範囲が広すぎるか。あー、ぬぬぬぬぬ」
「どうしたのじゃ? 」
助けて。しょうがないなあ。
というやり取りの後、うさみが首をひねって唸りだした。
それを見たエルプリがなんじゃこいつ大丈夫か頼む相手間違ったかという表情でうさみの顔を覗き込む。
「ちょっと待っていまエルフが集まってる場所を調べてるから」
「ほほう」
正確には調べるための魔法を作っているところである。
「んー。時間もないしサッとやろうか。【拡散結界】……こっちでエルフと獣人族が集団戦してて、エルフの集落はあっちかな。そっちでエルフが一人……うあ」
「どうしたのじゃ?」
うさみは周囲の魔力を取り込んで拡大していく結界を展開した。
効果は特にない。
何者かが境界を超える際にその形状からうさみが人力で確認するだけだ。広がっているので境界が動いていく。レーダーに近いものである。
これを詳細まで確認できるようにすると必要な魔力が跳ね上がり、そういう魔法を使うと面倒なのがやってくるので避けるべきところ。
そしてそれらしいものを指で示していき、エルフの集落と思われる地形と多数のエルフの存在を認識したあとで、気になる反応を見つけた。
「ちょっと待っててすぐ戻るから」
「え」
エルプリの疑問をスルーして、うさみが姿は消した。
「の、のじゃ?」
キョロキョロとあたりを見回すエルプリ。
音もなく、枝を踏む衝撃もなく消えたうさみを探していたが見つからない。
「ただいま」
そしてエルプリが泣きそうになったころに戻ってきた。
「なんで泣きそうなの。すぐ戻るって言ったじゃない」
「え、いや、のじゃ?」
何かあったら困るので視点を残していったのだが、すぐ涙目になるものだからすごく急いだ。
うさみは泣く子どもは苦手である。
「そなた、それは」
「うん、この人以外はいなかったよ」
涙目の子どもの視線はうさみが背負っている存在に向いていた。
「エルシスねえさま」
うさみが連れ帰ったのは血だらけのエルフの大人の女性。
激戦だったのだろう。元通りの生活はできないのではと思わされるほどの傷を負っている。
他にも何人かいたが、皆死んでいた。
その場にいた獣人族たちは眠らせてある。
うさみの推測通り、エルプリの関係者だったらしい。
方向と状況からそうじゃないかと思ったのだ。
追い詰められていたので回収に行ったのは正解だった。
「とりあえず応急処置してエルフのところに逃げ込もう」
「う、うむ。わらわ何をすればよいのじゃ。エルシスねえさま助かるのか?」
「服脱がせるから手伝って」
うさみは意識がない“エルシスねえさま”の体を浮かせるとエルプリに手伝わせて服を脱がせると水を出して洗浄した。
傷口は魔力で物理的にふさいでいるのでひとまずの止血はできている。
神聖魔法があれば簡単なのだが、今生では人と関わる気がなかったので取得していない。
ひとまず生命力と回復速度を強化する魔法を使ったあと、血の汚れなどを老廃物ごと体を包む水に移して地面に捨てた。
「外套を」
「予備出すからいいよ」
借りている外套を脱ぎかけたエルプリを止めて、うさみは腰のポーチから明らかに体積がおかしい外套をもう一着取り出した。
エルプリはそれを見て何か言いかけてやめた。
「さすがに大きさが違い過ぎるねえ」
うさみたちが着ると足首まである外套だが、エルシスにまとわせると簡単に覗ける丈になってしまう。
うさみは裁断前の布を取り出してエルシスの体をぐるぐる巻きにした。そのあとで申し訳程度に外套を巻いた。
「それじゃずらかるよ」
「ずらかる?」
「逃げるってこと」
うさみはミイラ外套のエルシスを右肩に担ぎ、エルプリを左小脇に抱えて移動を開始した。