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戦争初心者うさみ 5

「わらわは赤樫の氏族、紅の森の一族が子、エルプリ。そなたの名を聞くのじゃ」


 エルフの女の子は、うさみに向き直って真面目な顔で名乗った。


 その様子から、これは正式な名乗りみたいなやつなんだろうなとうさみは考える。

 森じゃ手に入りにくいだろう金銀の首飾りやブローチを身に着けているのもあるし、このエルプリって子はいいとこの子なんだろうと推測。


 どうしようかな。助けたのはいいけど権力者とかかわるのは面倒だ。

 見た目で舐められてなんだかんだで時間と労力を取られるまでワンセットなのだ。

 今生は探し物をすることに決めているのだ。まあそれほど急いではないからちょっとくらいなら。でもちょっとって言ってたらすぐにズルズルとなあ……。


 とはいえこの子は子どもだし、この状況で置いていくのも。


 そんなことを考えながら、うさみは返事を返した。


「わたしは旅人のうさみ。物心ついた時から人族の領域に居たのでエルフの礼法は知らないんだけど、氏族っていうのは親の系譜のことでいいの?」

「うむ、そうなのじゃ。が……」

「わたし親の顔も話も知らないんだよね」

「なんと! いや、うむ……」


 エルプリの表情があっという間に渋いものになる。


「であれば浮草の氏族じゃろうの」

「草?」


 草花の神様が作った種族は別にいる。

 平均身長がうさみより低い、小人族と大別されるなかの一種族だ。

 平原が主な生息地だったのだが、人族と競合して戦争に……ならずに人族社会に紛れ込んでいる。


 なので樹木神の子のエルフが草とつけるのは違和感があった。


「知らぬかもしれんのじゃが、宙に浮く木があるのじゃ。浮草と呼ばれておるが、あれで樹木なのじゃ」

「浮草は見たことあるよ」


 浮石とか浮魚とかも見たことがある。


「大地に根付かぬ木ゆえに、森を持たぬ者たちを浮草の氏族と呼ぶのじゃ」

「なるほどねー。血縁とか関係なく」

「のじゃ」

「で、被差別民」

「のじゃ……ん? いやえええええとちちちちち違うにょじゃ?」



 つまり、エルフの視点では。

 森を持つエルフが偉くて、事情はともかく森の外で生活するエルフは下に見られるということなのだろう。

 まあ、引きこもりが基本のエルフだ。

 森を離れるということは戦争で負けて取られたとか、犯罪を犯して追放されたとか、エルフ視点での社会不適合者の変わり者で外に憧れて旅人でたとか、その変だと思われる。

 であるならば蔑視もまあ理解できなくもない。敗北者、犯罪者、変人だもの。


 そして大地に根付くというのが重要な価値観なのだろう。木だし。

 浮いてて草とつけられている浮草。

 なるほどなあ。


「じゃあまあ、そういうのに助けられたらいろいろ面倒だよね。ここで別れよっか」

「い、いや待て違うのじゃ! わらわの力不足の問題なのじゃ! 気を悪くしたならすまぬ」

「うん?」


 エルプリが今度は焦りだす。

 うさみはちょっと意図が読めなかった。

 おいて行かれて困るから、というのとも違うように見える。


「見たところ、わらわと同じくらいじゃろ? その上、浮草の氏族であるにもかかわらず、わらわを軽く担いで跳びまわり、魔法も自在に操っておる。わらわは遥々ここまでやってきたというのに、護衛ともはぐれこのザマなのじゃ」

「えー。そんなこと言ったら、エルプリちゃんの方が胸もおっきいじゃん」


 うさみはエルプリの胸を突っついた。


「ひゃん!?」


 厚さはないが、やわらかかった。少なくともうさみよりは。


「あとわたし、見た目より年寄りだから。むしろおばあちゃんだから。これ以上成長しそうにないんだよね。あと技術のことはあんまり気にしなくていいと思うよ」


 話に聞くところではエルフの成長は人族と大差なく、成人して若い時代が長いのだそうだ。

 本当かどうか知らないが。

 仮に誤情報で、人間の一生を十倍に引き伸ばしたような感じだとしてもうさみの方が年上である。と言っていいと思う。

 だってもう何回死んだか覚えてないくらい年月重ねてるもの。


 そして死ぬ直前以外は老化もしないでこのままの姿である。


「そ、そなた何をするのじゃ! わらわ女ぞ!」

「わたしも女だけど。そんなことより」

「そんなこと!?」


 余談はこのくらいにしておいて。

 ちょっと気になる言葉があった。


「エルプリちゃんここらのエルフじゃないの?」

「へ? あ、うむ。そうなのじゃ。エルフの森の名は知らぬな? この森は橙の森。わらわは遠く紅の森から救援を求める使者として参ったのじゃ」

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