戦争初心者うさみ 4
創造神が、自らの似姿として人族を作り、世界の住人とすることにした。
そこに、他の神々がやってきて、自分たちも参加したいと言い出した。
創造神は多様性を望みこれを受け入れた。
創造神は条件を出した。
姿かたちを人族に似せること。
人族との間に子を作ることが出来ること。
そして世界に放つ前に創造神が確認すること。
こうして神々は、人族を参考に多くの種族を生み出した。
これらを総じて人類と呼ぶことにした。
エルフは樹木の神が生み出した。
樹木の特徴を引き継いで長命で、樹木と共存できるように森の適性を与えられた。
また、樹木の神は目がなかったのでどう作ればいいかわからず、形だけまねて、光の有無にかかわらず見える目を作り与えた。
目を作ったところで細部を作り込むのは向いてないと悟ったので、他の部分は人族をそっくりまねた。
その結果、人族とそっくりになってしまい、創造神の指示で区別するために耳の形を変えることになった。
エルフは森と共存し、森に住むようになった。
獣人族は種族ごとに異なる動物の神々が生み出した。
動物神の多くは自分たちの姿を人族の形に変えることにした。
そのため、人族より身体能力が高く、元の神の特徴が強く出ることになった。
それぞれ名がつけられたが、あまりに多いのでまとめて獣人族と呼ばれるようになった。
獣人族は自分たちの特徴にあった場所に住むことが出来たため、様々な場所に進出した。
しかし種族が多くて住まう場所のために互いに争い合うことになった。
ということで、神話のころからエルフと森を好む獣人は争う定めだったのだ。まあ神話が事実かどうかはうさみは知らないが。
うさみとしては両種族の気持ちはわかる。
森は生きていく上で必要なものが多くあるのだ。
空を飛ぶヤバい生き物から隠れることもできる。
必要な能力を持っているなら生きやすい。
しかし森ならどこでもいいというわけではない。
自分たちが食べられるものが取れなければ当然飢える。
移動するかあるところから手に入れなければならない。
で、他の食べ物があるところに誰かいたらどうかるかというと争いになるわけだ。
そう考えると平原に出て農耕を始めた人族の方が賢明に思える。
食料を増やせれば争わずに済むからだ。
いやでも人族同士も戦争してるのでそうでもないか。
人口増えて農耕で賄える分が満たされたら同じだものね。
規模が大きくなっている分余計に被害が大きいともいえる。
そもそも他者の命を奪うことで強くなるこの世界の仕組みからして意地が悪いというもので――。
話がそれた。
うさみは女の子が所属するエルフと獣人族もそのような争いの一環であると思っていた。
どこにでもある普通の縄張りの取り合いだろうと。
□■ □■ □■
「寒くないの?」
「そなたがはぎ取ったのじゃろ!?」
改めて話をする体制を整えてのうさみの第一声に、女の子はさも心外だというように声をあげた。
「あはは、まあこれ貸してあげるから」
「ぬ、すまぬのじゃ」
うさみが身に着けていた外套を渡す。
緊張をほぐすための冗談だったのだが、思ったより反応が激しかった。
しかし、直後に外套を素直に受け取ったので、切り替えが早いのかも、と
女の子はいそいそと着込んだ。
上着で半分隠れていたとはいえ、下から見れば丸出しだったわけなので、いや外套来ても下から見れば丸出しか。
うさみはちょっと悪いことしたかなと思ったが、犬っぽい獣人族から逃げるためだったので仕方がないよねと思い直した。
「うむ、助かったのじゃ、礼を言うぞ」
「ああうん、悲鳴が聞こえたからね」
うさみは半分くらい自分が原因かもと考えていたので生返事になる。
しかし女の子はそれを気に掛けた様子もなく、違うことを尋ねてきた。
「そなた、何者なのじゃ? エルフじゃよな? わらわ、我が氏族の顔はみな覚えておるが、そなたを見た覚えはないのじゃ。助けられた礼をせねばならん。どこの氏族の者か教えてほしいのじゃ」
どこの氏族?
なんだそれ。っていうか氏族って何さ。
うさみはこれまでエルフと深く関わったことがなかった。
エルフは基本引きこもりだし、人と関わる暮らしをするなら人族の街の方が暮らしやすい。
そして自身がひきこもるならエルフもいない場所を選ぶ。
なので、うさみはエルフなのにエルフの文化に詳しくなかったのである。