戦争初心者うさみ 3
十分と思えるだけの距離を稼いで、ようやくうさみは足を止めた。
いつのまにか静かになっていた小脇に抱えている女の子を太い枝に下した。
魔物素材を使った簡素だが上質な服に、金銀をあしらった装飾品をいくつか身に着けた、金髪で森色の瞳の女の子。
うさみと同じくらいの背丈だが、つるんぺたんすとーんのうさみと違い、胸が若干膨らんでいた。
つるんぺたんすとーんのうさみと違って。
ふーん。この子将来巨乳になりそうだね。いいなあ。ふーん。
それはまあおいといて。
女の子は顔色が真っ青で、ガタガタ震えていた。
まあ当然だろう。
大柄の獣人族がに大勢で追い回され、あわや捕まるか、というところでうさみが助けたのだ。
小さな女の子にはよほど恐ろしかったに違いない。
そんなのうさみでも怖いもの。
「大丈夫、怖い人は近くにいないよ」
うさみはそう言いながら、背中を撫でてやった。
しかし。
「違うのじゃ。ものすごい速さで何度木にぶつかるかと……っ」
「え?」
「死ぬかと思ったわ!」
思ってたのと違ったらしい。
いまだプルプル震える女の子を見てうさみは首を傾げる。
「あれくらいエルフなら慣れてるでしょ?」
足が速い獣人族が相手なので、逃げるため自動車より遅い程度の速さで移動した。地面すれすれなら速く感じるだろうが、樹上だと視点が高いのでそんなに気にならないと思うのだけれど。
「そんなわけあるかーい!」
震えてるのに声は出る。
この子意外と大物かも。
だんだん血色が戻ってきた女の子を見てうさみはちょっと感心していた。
「父上よりも速かったのじゃ。速すぎてチビッ……ってはないのじゃ」
「え」
うさみは慌てて女の子のマタに手を当てた。
「ぎゅにゃあ!? 何をするのじゃ!?」
「濡れてるじゃん! 漏らしたならもっと早く言ってよ!?」
「ももも漏らしてないのじゃ! ええと、汗なのじゃ!」
女の子は言うが、嘘である。その証拠に触った手からも独特のにおいがする。
ばっちい。
……じゃなくて。大変だ。
「脱いで!」
「脱げじゃと!? そなた女じゃろ!? わ、わらわ女ぞ!?」
何言ってるのこの子。
いやのんびりしてる場合じゃない。
「匂いで居場所がばれる!」
相手は犬系の獣人族である。狼系かもしれないけど、まあそこはどっちでもいい。
彼らは匂いに敏感だ。
救出の際にはなった魔法でしばらくは時間が稼げるだろうが、仲間もいるかもしれないし。
消臭の魔法では濡れた服がきれいになるわけじゃないので、一度においを消しても再度アンモニア臭が漏れてきて、それが目印になってしまうのだ。
「ぎゃー! やめろー! 脱がすなー!」
「こら暴れないでよ!」
しかし、こうして騒いでる方がよほど目立つ。
鼻もいいが耳もいいのだから。
「いたぞ! エルフだ!」
「殺せー!」
ほら見つかった。
うさみはズボンと下着をはぎ取って魔法で跳ばした。
跳ばされたズボンと下着は木の枝にぶつかりながら跳んで行った。
そして魔法で水を出して女の子の下半身を洗い。
「ちべたい!」
魔法で乾かし。
「ぬくい!」
「ちょっと静かにしてよ」
内外の音を遮断する魔法結界を張って。
小脇に抱えてズボンと下着を跳ばした方とは反対に移動を始めたのだった。
「もう漏らさないでね?」
「だったらせめて背負うのじゃ!?」
「背中で漏れたら私の髪と服が汚れちゃうじゃん」
「漏らさないからっ! 小脇に抱えられるの怖いのじゃ!?」