戦争初心者うさみ 2
「やっぱり森はやめたほうがいいかなあ。いいところは誰かの縄張りっぽいし」
犬だか狼だか系統の獣人族を、川を越えさらに消臭の魔法を使って撒いた後、うさみは適当な木の枝に腰掛けて休んでいた。
森はうさみにとって都合がいい地形だ。
人類で一番数が多いだろう人族は森の奥へ入ろうとしないというのがやはり大きい。
他にもうさみ一人が食つなぐ程度の食糧なら手に入る。
魔物対策にも心当たりがある。
うさみがエルフであることもあって、森での生活にさほどの不便もないのだ。
しかし、大きな森にはうさみではない本物のエルフが陣取っているし、そうでなければ獣人族の縄張りだったりする。
獣人族は過去大移動を起こして広範囲にその生息地がある。
狼系や熊系などは特に武闘派で、当然エルフとは揉めごとになっていたりする。
厄介なのが、上空から見ても彼らの縄張りが判別できないことだ。
そもそも、上空の移動は目立つし、面倒なのが襲ってくるので基本避けているのだけれど、地形を確認する上では便利なので短時間上がることはある。
人族は森を切り開いたり、あるいは平原に村や町を作るので上空からなら一発でわかるのだが、森は魔物かエルフか獣人族かはたまたそれ以外か、見ただけではわからないのだ。
「なんかこう調べる魔法を作ってみようかなあ」
魔法は大体万能だ。
ただ問題があって、あまり魔力を高めると襲い掛かってくるやつらがいる。
魔法の万能性は注ぎ込む魔力に依存するので結果としてできることは限られる。
一方で、様々に、例えば神話の逸話の利用するなど工夫して、同じ魔力でより高い効果を、あるいはより少ない魔力で同じ効果を引き出す研究をする魔法研究者が、いわゆる魔導師。
うさみは魔導師としての才能は並だが、何度も生きているだけあって知識と技術は世界有数だ。多分。
新しく魔法を作ることそのものは可能である。
「問題は条件付けかな……」
範囲はまあ視界内でいいだろう。わかりやすい。
正確には木々の下までか。いや地中も確認しないとなにかいるかもしれない。うさぎとか。長虫とかもいたりするし。でもそのあたりは地上を確認してよさそうだったら地下も確認するようにすればいいか。
それより何を参照するかだ。魔力反応は一番簡単だが魔物がいっぱい引っ掛かるのが目に見えている。人類か。それはそれで厄介な魔物を見落とすよね。うーん。
といった具合で軽く思い付きを検討していると。
「――!」
声が聞こえた、ような気がした。
森に棲む魔物なんかの鳴き声とは違う音。
うさみは立ち上がり枝から枝に跳び移りながら、音がよく聞こえるようになる魔法を使った。
「いやぁっ! 助けて!」
女の子の声だ。
「エルフを殺せー!」「殺せー!」
大人の男の人たちの声だ。
「…………」
うさみは跳びながら考えた。
男の声はさっき撒いた獣人族たちではないだろうか。
じゃあ女の子の声は?
エルフを殺せーって叫びながら襲い掛かってくるくらいエルフと敵対してるわけだから、そりゃあ近くにエルフの集落があるのだろう。
なら、エルフがいてもおかしくない。
そしてうさみを追っていた獣人族は、うさみを探していたことだろう。
両者がひかれあうのは自然の理。
「っていうか巻き込んじゃった感じ?」
無関係だったら逃げていたかもしれない。
何周も生きてきて他人に対して感情移入しない方が楽だと経験してきたからだ。
が、うさみが原因であったとしたら放置すると心苦しい。
今この瞬間にも世界中で襲われている人はいるだろうが、うさみの手の届く範囲でうさみに巻き込まれる形で襲われるとなるとさすがに気になるしーということで。
うさみは樹上から跳び込んで今にもつかまりそうだった女の子を攫うと同時に強い花の匂いと睡眠効果のあるガスを出す魔法を放ちまた樹上へ跳んで逃げそのまま樹上を跳び移って距離を確保した。
「え、は、なに?」
「喋ると舌噛むよ」
女の子はうさみと同じくらいの背丈の子どもだった。