戦争初心者うさみ 1
「エルフだ! 殺せ!」
「ひぇぇ」
怒声とともにすさまじい速さで駆け寄ってくるのは大柄な獣人族の集団だ。
その数は十を超える。
獣人族と一口に言っても獣度はピンキリである。
体の一部、耳などに獣の特徴が顕れているだけのものから、直立した獣にしか見えないようなものまで。
今ここにいるのは全身毛皮のタイプの部族だった。
これでほかの人族との間に子供を作れるというのだから、うさみとしてはなかなかに不思議である。
それはそれとしてうさみは悲鳴を上げながら逃げた。
だって怖いし……。
犬系に見えるし……。
うさみは犬が苦手なのだ。
あと、大人の男の人も苦手だ。特に大きくてごつくて男性ホルモン強そうな肉体派の人が。
つまり、立って歩いて胸板ごつくて腕も太くて防具を付けて武器を持って襲い掛かってくる犬となると。
そんなの、もう逃げるしかないじゃない!
というわけで逃げたのである。
うさみは今、この世界を見て回るために旅をしていた。
定住するのに都合のいい場所を探すためだ。
死んでも初めの場所、時間に戻されてしまう。
これを何度か繰り返す中で、うさみは思い知ったことがある。
知った顔、特に懇意にしていた者が自分のことを知らないという状況はつらい。
というわけで、うさみは今生、そしてこれ以降の生のため、適当な場所を探すことにしたのだ。
条件はいくつかある。
まず自給自足できること。
これは地面があればなんとかなるだろう。
地球時代にはおじいちゃんの家で農業の手伝いを毎年やっていたし、ゲーム時代でも植物の成長を助け豊作にする魔法を使ったことがある。
また、これまでの生の中でも農作業の手伝いをしたこともあった。
魔法を駆使すれば、土を耕すのも、草をむしるのも、地球のころと比べれば相当楽であることはすでに実証済みである。
少なくとも、うさみ一人が食べる分には十分だ。
次に、人が寄り付かないこと。
懇意にする相手が増えると他生で寂しくなる。
なので、誰かと一緒に定住するのはよろしくない。
それに、仲良くしてもほとんどの場合先に亡くなる。寿命の違いだ。
これも悲しくてつらい。
となると、人が寄り付くようではだめだ。
スターティアの街の近くにある迷いの森のような場所で、他に誰も住んでいない場所があればいい。あるいは作るか……。
そして交通の便。
人生を繰り返すことがこれから何度続くかはわからないが、まずまっすぐにその場所を目指して拠点を作り、基本引きこもっていきたい。と、現状は考えている。
しかし、なにか予想もできないことがあったり、人寂しくなったりした時に人里へ出ることが出来るとよい。
とはいえこれは二つ目の条件と相反するし、移動には魔法も使えるので重要度は低めである。
が、楽ができるならその方がよいので一応の条件だ。
今生はこの作業に費やす覚悟だ。
候補地を絞って千年観察するのだ。
最適な場所があれば以降の生でずっと利用できることを考えれば、一度くらい骨を折ることは何でもない。
今生で繰り返しが終わるならそれはそれでいいし。
というわけで旅をして探しているところなのである。
しかしこうして各地を回って思うこともある。
「エルフってなんでこんなに嫌われてるの」
ということであった。
どこに行っても火種がある。
比較的発展している場所ではそうでもないのだが、田舎であればあるほど、エルフは敵視されていた。
特に獣人族とは相性が悪いらしい。
大雑把な傾向として、獣人族は狩猟民族。森を好んで集落をつくる。森の恵みを取りつくしては移動する。
平原にすむ獣人族もいるが、彼らは地球でいう騎馬民族のようなもので、馬人族と別に呼ばれている。
話がそれたが、エルフもまた、森を好んで集落をつくる。
こちらは森と共存する方向である。
肉体的な能力が高い獣人族と比べて、魔法よりの文化であり、獣人族は森を荒らすと嫌っている。
住まう場所が被っており、森に対するスタンスが違うのでもめるのは当然のことだった。
しかし、うさみは森に棲むエルフとは関係ないのだ。
なのに問答無用で攻撃されるのである。
説得しようにも、証拠も何もないし、仮にうまく説得できても、他の集落の獣人族に見つかればまた同じことになるわけで、リスクばかり大きくて徒労である。
その結果、愚痴をこぼすくらいしかできないのだった。