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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
200/494

冒険者初心者とうさみ 62

 迷宮の崩壊による魔物の氾濫、ひとまずの事態の収拾にはおおよそ一か月。

 結果を述べると、近隣の農村が壊滅し、ドイ・ナカノ街は難民であふれ、街道は荒れて、未だ多くの魔物が残存し、通商路としての価値は大きく低下。

 迷宮があるとされた地点には小規模だがドイ・ナカノ伯に使える魔導師による戦略級魔法が撃ち込まれ、現在も消えない炎によって焼かれ続けている。

 この迷宮も改めて攻略しなければならない。


 街そのものは大金をかけて張られた神聖魔法による結界で無事である。

 しかし、多数の課題が残っている状態だった。






「やっと帰ってきたよ」


 アップルたちは、アップルの故郷の村から生存者を連れて街まで帰ってくることができた。


 氾濫の発生からというもの、様々なことが起きた。


 伯爵が擁する騎士団、魔導師団の出動。

 戦略級魔法の発動。

 神降ろしの不発と巨大結界の展開。

 村への救援。

 竜の来襲。

 村での激戦と防衛。

 生存者を連れての街への帰還。


 アップルは何度も死んだと思ったし、共に行動した者の中に死んだ者もいる。

 しかしそれでも、生還できたのだ。


 アップルはもう少しだと疲れた体に鞭打って、冒険者ギルドの玄関をくぐった。


「ただいまなのです、お師匠様……いないなのです?」


 冒険者ギルドには怪我人が大勢座り込んでいた。

 冒険者には見えないものもいる。

 痛みにうめく声の中、ギルド職員が手当てをしていた。

 うさみさんが居れば、この光景はありえないはずである。

 どうしたのだろうか。まさか……。


「あ、“花と実”! 生きていたのね! よかった! ナノちゃん、魔力は?」

「行けるなのです。お金くださいなのです」

「ええ!」


 目にくまを作っているマっちゃんがナノを連れていく。

 治癒魔法が使えるナノである。

 うさみさんが居ないなら、この状況であれば引っ張りだこだろう。

 お金さえあれば。


 アップルは怪我人の中を抜けて、後ろの三人を連れて二階の自分たちの部屋へと連れて行った。

 そして崩れ落ちるようにして眠った。



 次に目を覚ました時、目の前にナノの顔があった。


 驚いて声をあげそうになったが、すぐに思い出す。

 アップルとナノの二人部屋に、五人詰め込んだのだ。

 寝台が足りないので、ナノはこちらに来たのだろう。


 もう一つの寝台ではケラサスにペルシカがぴったりくっついている。

 こちらはナノと、そしてアップルの妹が眠っていた。


「あー。生きてる」


 しばらく動かずに天井を見ていた。


 故郷の村は壊滅した。

 他のパーティとともに救援として派遣された時点で魔物の第一波が届いており、畑は荒らされ、村人は礼拝堂に籠城していた。

 死人もすでに出ており、もはやこれまでかというところにアップルたちが合流したのだ。


 生存者が多かったことで、街への即時の避難は難しいと判断され、状況が落ち着くまで籠城を続けることになったのだ。

 簡易であるが防柵を作り活動できる範囲を広げ、食料は魔物を食べて食いつないだ。


 そして、騎士団による掃討部隊が村まで届いたところで、村人を連れて脱出したのである。


 その一か月弱の戦いの中で、グレイプが亡くなった。


 “花と実”と行動を共にしていたお爺ちゃんは、戦闘中腰痛が発症し、強敵と刺し違えたのだ。


 引退するほど懸念していた状況がそのまま発生したことになる。

 ワシに任せて先に行け、と昔から言ってみたかったのが叶ったわ、というのが最後の言葉だった。

 なんであのお爺ちゃんは最後にちょっと面白いこと言うのか。

 ……想像はできるが、誰もはっきりとは言わなかった。

 言ってしまうと、グレイプの遺志が台無しになってしまうだろうから。


「これからどうなるんだろ」


 アップルは眠っている妹の頭を撫でながらつぶやいた。


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