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うさみすぴんなうとAW  作者: ほすてふ
冒険者編
198/494

冒険者初心者とうさみ 60

 アップルが家族と和解した。


 アップルの故郷の村からの仕事がまた出ていたので受注したのだ。

 今年の冬播きの穀物の収穫はすでに終わっており、今頃は豆か春播きの穀物の世話をしている時期。

 ひどい不作があったという話は聞いていないので今年はアップルのような口減らしは必要ないだろう。

 だから仕送りも無理にすることはない。


 ということでお土産を多めに用意していった。

 鉄の農具。

 それからちょっとした装飾品。

 装飾品はご近所さんに配る分も含めて用意した。

 最後に村で作っていない野菜の種。


 全部で金貨十枚ほどになるが、今のアップルになら十分捻出できる額だった。

 各々の成長とペルシカの加入により、冬や春頃と比べると収入は大きく増えた。

 正規登録出来たばかりのころ稼げたのは生活費の倍程度、それも仕事用の消耗品の購入や装備の整備費用などこまごまとした出費に消えていた。


 今ではそのさらに倍以上稼げている。

 ペルシカの魔法触媒の消費で出費も増えたが、それ以上に収入が増えたのだ。

 アップル、ナノの武器、ケラサスを加えた三人の防具を更新した上で、予備の武器や保険としての魔法薬、ナノの治療魔法用の貯金なども備えつつあった。


 収入の半分をパーティ強化の共有資金、残りを個人のお金というパーティ内の決め事により、日々をつつましく暮らせば一季節で金貨十数枚程度の貯金はできたのである。


 ナノも借金の返済を半分終わらせ、出身の孤児院にもお金を入れている。

 アップルも負けてはいられないと奮発したのだ。

 無理はしていない。

 していないが、無理しないギリギリまで。


 そして実家でドヤ顔で、これだけお土産持って帰っても余裕なのよへっへーん、と自慢し、だから心配しないでよね、と笑い飛ばして両親を泣かせた。


 前回の訪問時と比べて装備が一回りよくなっていることで信じてもらえたらしい。

 顔ぶれが変わっていることで心配させたが、腰をやったので引退しただけと伝えるとほっとしていた。


 そして、依頼されていた仕事を終える。

 これも、前回訪問時と比べると手際よく進めることが出来、アップルたちは成長を実感した。

 ペルシカが話に入れなくて一度拗ねかけたが、ペルシカの魔法のおかげだとみんなで褒める流れになり機嫌を直した。ケラサスはもっとペルシカに気を回した方がいいと、アップルとナノはこっそり言い合った。


 それから数日、休暇を兼ねて村に滞在した。

 アップルは旧交を温め、仲間を紹介し、狩りに出て肉を供給し、子どもたちの羨望のまなざしを受けた。

 その結果子どもたちが冒険者になりたいと言い出して親御さんが困ったりもしたが。

 ナノはアップルに親友として紹介され、まんざらでもない様子で連れまわされた。

 特にアップルの妹が二人とも懐いてしまい、アップルと取り合いになったりもした。


 ケラサスやペルシカも、村の生活は新鮮だったようで、試しに農作業を手伝ったりしていた。


 総じて楽しい休暇となった。


 楽しすぎて予定より長く滞在してしまったのも仕方がないことだ。


 前回から気にしていた問題が解決して、帰途のアップルは非常に機嫌がよかった。






「へー。ふーん。そうなんだー。よかったねアップル」


 ドイ・ナカノ街冒険者ギルドに帰還した後、うさみさんと卓を囲んで食事をしながら今回のことを話したところ。

 途中から、うさみさんの笑顔が。いや笑顔なのだけれど。


 何だろうこの圧力は。


「家族と仲直り出来て。家族とは会えない人やなくなってる人もいるからね。大事にできる人は大事にしなよ」

「あ。はい。そうします」


 とか言いながらも笑顔のうさみさんだが。


 なんだこれ。……恐怖? あたしは今恐怖を感じているッ!?


 アップルはぶるりと身を震わせた。

 ちらりと隣を見ると、ナノも何かを感じているらしい。


 ごくり、と誰かの喉が鳴った。



「…………」



 沈黙が落ちた。

 なんとなく話題の隙間にこうして妙な間ができることはあるが、今回のはちょっとこうなんだろう。重い。

 アップルは何か言おうとしたが言葉が出てこなかった。


 しばらくの沈黙の後、うさみさんがふと息をついて。


「ま、無事で帰ってきて何よりだよ」


 というと同時に重苦しいなにかは霧散した。


「そ、そうなのです。お師匠様に心配させたなら申し訳ないなのです」

「なのです」

「マネするななのです」

「ななのです」

「お師匠様ぁっ!?」


 そしていつもの空気に戻ったのだった。

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