冒険者初心者とうさみ 56
魔法使いペルシカが正式採用となったことは冒険者パーティ“花と実”の活動におおむね良い影響を与えた。
まっとうな教育を受けた魔法使いという戦力の加入。
魔導師の資格は残念ながら持っていないので新たに魔法を伝授することはできないが戦闘員としては有力だ。
手持ちの武器による戦闘しかできなかったアップルたちに新たな戦術をもたらした。
魔法というのは反則的な力であると、アップルは思う。
弱点もあるが使い方次第で何でもできるのではないだろうか。やばい。超やばい。
大変うらやましいが、機会に恵まれ努力した者の特権だ。うらやましい。
しかし、魔法そのものも強力だが、それ以上にアップルたちと連携した時の効果がすさまじい。
アップルとナノ、ケラサスがそれぞれ一だとすると三人で三、連携込みで五か六くらいの戦力になるだろう。
ここに魔法使いペルシカがやはり一くらい。
しかし前衛がいれば三くらいの仕事ができる。加算すると八か九だが連携すると十から二十くらいになる。
いやまあそんな単純な計算でもないし相性のようなものもあり、また一日に使える魔法には限りがあるので、だから必ずしももっと強い敵をいっぱい倒せるというわけでもないのだが。
それでも出来ることの幅が大きく増えたことには違いない。
それはペルシカの祖父、グレイプという戦力を失ったことを込みでだ。
グレイプはアップルたち三人より強かったが、方向性は同じだった。
接近戦である。
盾を持っている分、そして経験の分できることの幅は広かった。年の功は大きい。
それでも出来ることの幅は比べるべくもない。
お爺ちゃんの知恵の分アップルたちが脳みそを働かせればだが。
もちろん、欠点もある。
接近戦能力は四人のうち最下位だし身体能力も同様だ。持久力だけは同じくらいあるのは行軍訓練のおかげらしい。
持ち物が高価で目立つ。
これは性能も備わっている分マシといえばマシだが、それでも魔法使い向けの伝統的な装備は物理的な攻撃に対して強くない。
はっきり言って動きにくいだろう装備には意味がある。
つば広のとんがり帽子はその形状が魔力を高めるとされている。
隠しポケットが数多く仕込まれたローブは魔法の準備を簡略化したり効果を高めたりするための媒体を取りそろえるためだ。ついでに魔法防御も仕込まれている。
ねじくれた杖もやはり魔法の行使を補助するためのもの。
が、その伝統的な装備をしているものは多くないので目立つ。
魔法に関する道具は大体高いものだと思われているしペルシカの装備は実際に高いものだ。
高くても実力相応であればいいのだが、正直“花と実”の実力はそこまで及んでいない。
ドイ・ナカノ街は治安がいい方で冒険者もお行儀が良い方だからまだいいが。
他所の街に行くときのことを考えると、不安はある。
そして一番の問題が。
ペルシカはアップルとナノを嫌っていることだ。
表面上は普通に交流できているのだが、ときどきすごい形相で睨んでいたりする。
こわい。
おそらく、というか間違いなくケラサスに関わることであろう。
ペルシカがいない間にケラサスに近づいた女共。
ということを酔ってこぼしていた。
こわい。
執念深そうなペルシカに敵視されるのは面倒ごとである。
それでも受け入れたのは戦力として十分だからで、また表面上は普通に交流できるからだ。
ケラサスがいれば。
そしてケラサスがいなければペルシカは出ていくだろうからその時のことは考えなくていい。
ただまあ、アップルとしては、ペルシカは得意分野が違う物知りのお姉さんである。
ナノは同い年だし、勉強中。うさみさんはアレだし、マっちゃんは受付でいつも忙しそう。魔法を教えてくれた氷の魔導師の先生はすでに仲間と合流して旅立った。
アップルは実家では長女だったので、年上のお姉さんというやつが気になるのだ。
物知りで頼りになるならなおいい。
どうにか仲良くなれないかと目論んでいるのだが。
ケラサスを褒めると怒るし、悪く言うと怒るし、接し方が難しい。
それでもまあ、向こうが自分を抑えているうちにうまい付き合い方を見つけようとしていた。
そして春が過ぎ、夏になった。




